「コロナ後にこそ、新しい変化と挑戦を」 MCIリングの役割
認知症予防や介護予防はコロナ後、どうなるのでしょう。介護予防に取り組む一般社団法人MCIリングの代表理事、朝田隆さんは「ポストコロナの時代には、新しい変化を期待したい」と語り、挑戦をキーワードに上げています。
コロナ禍で、認知症や軽度認知障害(MCI)の患者さんに、どんな影響がありましたか。
新型コロナウイルス感染拡大における米国の6200万人のデータに注目してみましょう。
認知症患者の感染率は、一般市民の2倍、死亡率は4倍だそうです。衛生意識、基礎疾患、集団生活など、いろんな要因を重ね合わせるとその背景が浮かび上がります。
国内では緊急事態宣言が解除され、7月末には高齢者のワクチン接種が行き渡ると期待されています。その通りにワクチン接種が進むと、8月には、事態はかなり改善されることが見込まれます。
コロナ禍でも自宅で楽しめるプログラムはありますか。
「暮らしの脳トレ」が公開されています。MCIリングとニッセイ情報テクノロジーが作成した問題は1000問くらいあり、一日に3題ずつ出題されるプログラムになっています。
カタログハウスのウェブサイトにある「今日の益軒さんドリル」はパソコンでもスマホからでもアクセスできます。アニメの貝原益軒さんが「このドリルは認知症になると衰えてくる機能に的を絞って問題がつくられておるんじゃ」と話して出題される形になっています。
認知症になると衰える四つの能力「短期記憶」「視空間認知」「注意力」「推論力」に着目し、能力の維持に役立つ問題が出題されます。脳を活性化させるドリルになっています。
カタログハウスが紙媒体からウェブサイトに移行を試みる過程で、特にターゲットとする高齢者に活用を促す仕掛けです。
家族が認知症かMCIかもしれないと思ったら、どこに相談したらいいですか。
数年前に、学会で専門医が集まって13問の設問に「はい」「いいえ」と答えることで、認知症とみなされる確率を自分で調べることができるスマホのプログラムを開発しました。
そういった仕組みを活用して、まずは、自分や家族の心身の状態を把握しましょう。自分で調べることも最初の選択肢となります。
ご家族が心配しても、ご本人が行きたくないと拒否するケースがあります。
そんな場合には、認知症の専門医を検索して、専門医に相談することをお勧めします。
都道府県や政令指定都市が指定する認知症疾患医療センターもあります。市町村には、地域ごとに地域包括支援センターがあります。地域包括支援センターは、高齢者を地域でサポートする拠点ですので、認知症を含めた高齢者とその家族の幅広い相談に対応しています。
専門医、認知症疾患医療センター、地域包括支援センターといった相談窓口をうまく活用することで医療や介護のサービスにつながることができます。
ポストコロナの時代には、どのような展開を想定されますか。
ポストコロナの時代には、オンラインの可能性がもっと注目されるでしょう。オンラインと対面の両方のよさを生かすハイブリッドの取り組みができたら、可能性が広がります。オンラインが柱になれば、地域格差は解消できます。
MCIリングは、運動、音楽、アート・美術、健康に関するレクチャーと多彩な内容の番組を配信しています。MCIリングのプログラムがオンラインを経由して広がると、介護予防の裾野を広げることになります。北海道から沖縄まで地域を越えて、いい意味での変化が起きることに期待します。
どんな治療に可能性を見ていますか。
アルツハイマー型認知症の新しい治療薬「アデュカヌマブ」が米国で承認されました。米国の製薬会社「バイオジェン」と日本の製薬大手「エーザイ」が開発した新薬です。日本では承認申請の段階であり、アルツハイマー病の根本的な原因とされる物質に作用する治療薬として注目されています。
薬物による治療、そして認知トレーニングや運動などの非薬物の治療とも併用する。そして、褒められることにつながる「人との交流」も大事にする。三つのアプローチをうまく組み合わせて、考えうる最高の治療を提供します。
認知症の当事者やご家族に向けたメッセージをお願いします。
「人生をカッコよく」を合言葉に、さまざまなプログラムを提案しているMCIリングの活動に加わってください。自分でできることを積み重ねて生きがいを見つけること、家族に頼ること、専門医や地域の相談窓口に相談すること。できることをつなげ合わせて認知症予防と健康づくりに挑みましょう。生きがいを感じる生き方を続けられたら、人生の後半を意味のある挑戦期に変えることができます。
MCIリングも、そのためのプログラムを提案して、幅広い情報発信に挑戦します。
朝田隆(あさだ・たかし) 東京医科歯科大学卒業、精神科医、一般社団法人MCIリング代表理事、筑波大学名誉教授、東京医科歯科大学客員教授、医療法人社団創知会理事長、メモリークリニックお茶の水院長。 |
執筆:おれんじねっと記者 中尾 卓司