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若年性認知症の当事者に聞きました 居心地がいい「仕事の場タック」

2021年10月23日

若年性認知症の当事者がつどう「仕事の場タック」は、大阪市東成区のJR玉造駅近くにあります。特定非営利活動法人・認知症の人とみんなのサポートセンターが運営しています。
若年性認知症の当事者である田房和紀(たふさ・かずのり)さんは「ここは居心地がよく、心のよりどころです。ここがあるから、仲間とわいわい言いながら楽しく過ごせます」と話しています。

若年性認知症になった経過をお話しいただけますか。

給排水工事の設計や施工の仕事をしていました。給水設備の改修工事の現場管理を担当して設計や施工の図面を描く際に、途中でうまく描けないことが多くなりました。

今、62歳です。4年前、最初にクリニックで診察を受けても、「認知症」ということばも知らず、ぴんときませんでした。

認知症の人とみんなのサポートセンターに通うきっかけを教えてください。

センターには、家族と一緒に来ました。職場で倒れて、相談の場に行こうと、家族に勧められました。
通い慣れると、居心地がいい。ここに来ると、やることがあります。

3年くらい、通っています。新型コロナウイルス感染拡大の緊急事態宣言が解除されてからは、週2回のペースです。

ここでの活動を教えてください。

仕事の場タックでアクセサリー類を手づくりすることが新鮮でした。

「くるみボタン」は簡単そうに見えて、結構、工夫が必要です。布を切って図柄と文字をバランスよく中央に収まるように、工夫のしがいがあります。工夫できるから面白い。硬い畳のヘリの素材を使うこともあり、力が要る作業です。外部から持ち込んだ布で、コラボ商品をつくろうという呼びかけもあります。

ここでは楽しく、わいわい言いながら、やっています。
仲間がいる安心感もあります。「ここどうや」と仲間と声を掛け合い、会話を楽しみながら、作業を進めます。

「やってみなはれ」の精神です。好奇心が旺盛なのだと思います。やったことのないことに、チャレンジしたいと思っています。

どんなことに取り組んでいますか。

コロナ禍で、公園の掃除、高齢者施設を訪れて車いすの清掃も始めました。
車いすを清掃すると、とてもきれいになり、車いすの利用者にも喜ばれます。

自宅がある高槻から電車で通っています。帰りは、玉造から大阪駅まで歩きます。5、6㌔くらいの道のりでしょうか。景色を見ながら、大阪城公園を抜けて、天神橋筋商店街を通って歩きます。自転車屋さんの前で、「新しい自転車が並んでいるな」と気づくこともあります。今年の夏は暑かったので夏場は「大丈夫か」と心配されました。

タックに出かけない日には高槻で、摂津峡から山城跡まで歩いています。
オートバイが好きでした。家族から運転は止められたので、ツーリング仲間にも「今は、歩いています」と話しています。「タックドア」という話し合いの時間に、みんなで語り合います。体が元気なのに運転できないことは残念ですが、運転の話題は盛り上がります。

若年性認知症で困ることはありますか。

ちょっとしたことが思い出せないことも、話すことばが続かないこともあります。「情けないな」と感じましたがそれも普通に受け止められるようになりました。

高校の同窓会で「認知症になったのでタックに通っています」と説明しました。高校のときとは違う、と知ってもらおうと。

認知症になってから、まちを歩いて、まちの景色を見ても以前とは違う見方ができます。

オートバイで走り過ぎる景色とは違って、歩いて知る景色はいいものです。オートバイに乗れないことは残念ですが、踏ん切りがつきました。できないならできないなりに、代わりの方法を見つけられるものです。

若年性認知症の先輩の講演会を聞きに行くと、あんな風に生きていけると自信につながります。

若年性認知症の当事者として世の中に伝えたいことをお話しください。

どういう出会いができるかが大切です。自分から動きたいと思います。すべてあきらめるのではなく、「やってみなはれ」の精神を大切にしたい。

認知症を否定するのではなく、受け入れることも必要です。実際に、認知症になって、あきらめたのは、運転だけです。家族の理解があることに感謝しています。家族に心配を掛けないことを心掛けています。

昨年、妻と妻の友達と一緒に瀬戸内に旅行に行きました。久しぶりに泊りがけの旅行でした。雄大な自然の景色を見ることができて、うれしかった。

認知症であることを否定的に考えることはありません。なったことは仕方ありません。認知症であることとうまくつきあうことを大切にしたいと思います。

仕事の場タック(Tack)

生きがいとしての仕事の場を目指す。タック(Tack)とは、スウェーデン語で、「ありがとう」の意味。ヨットの帆の向きを変えることをタッキングというように「認知症と診断された人生の帆の向きを変えてまた新しい人生をつくりたい」という願いが込められている。「くるみボタン」の制作など若年性認知症の当事者が仲間と一緒に働く場を提供している。運営母体は、認知症の人とみんなのサポートセンター。

特定非営利活動法人認知症人とみんなのサポートセンター

〒537-0024 大阪市東成区東小橋1-18-33
電話:06-6972-6490
ファクス:06-6972-6492

 

執筆:おれんじねっと記者  中尾卓司

1966年4月、兵庫県丹波篠山市生まれ。
1990年4月、毎日新聞入社。大阪社会部、外信部、ウィーン支局、社会部編集委員を経て、2020年3月、毎日新聞を早期退職。記者一筋に30年の経験を生かして、おれんじねっとの取材チームに加わり、記者活動を展開中。「つなぐ、つながる、つなげる」を掲げて新しい情報発信のかたちを提案している。
大阪大学箕面キャンパス「現代ジャーナリズム論」非常勤講師
関西大学社会学部「ジャーナリズム論」「時事問題研究2」非常勤講師

 

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