高齢者を狙った商法への対応
高齢者の人数は年々増加を続け、その中でも認知症高齢者やMCI(正常でもない、認知症でもない(正常と認知症の中間)状態の者)の人数も相当数の割合に達してきています。その様な、加齢や認知症等の心身の故障により消費者が契約の締結に関し合理的な判断ができない事情を事業者が不当に利用して、商品、役務に係る契約を締結させる消費者被害が多発しています。これらは事業者が、消費者を自由に判断できない状況に陥らせて契約を締結させるという悪質な商法となります。
梅子さん(仮名)の事例
梅子さんは、加齢により最近物忘れがひどくなっています。ある時、息子が梅子さんの自宅に行くと、多量のサプリメントがありました。
梅子さんに聞くと、お店で「これを飲まないと今の生活を維持することはできませんよ。」と言われ、購入したようです。しかし、梅子さんは医者にもかかっていますし、このような高額なサプリメントは不要です。何とか、対処できる方法はないかと悩んでいます。
消費者契約法の改正
消費者契約法では、不当な売買契約(説明に嘘があった場合(不実告知4条1項1号)、「必ず値上げしますよ」と言われ購入した場合(断定的判断の提供4条1項2号)など)の取消権が定められています。
それに加え、2018年改正により、昨今被害が増加している事項についてもカバーされるようになりました。
高齢者等に関する不安をあおる告知としての取消(消費者契約法4条3項5号)
消費者契約法の改正により、加齢または心身の故障による判断力の著しい低下により生活の維持に過大な不安を抱いている消費者に対し、事業者が、その事実を知りつつ不安をあおり、不安の解消には当該消費者契約が必要であると告げ、合理的な判断ができない心情(困惑)に陥った消費者に消費者契約を締結させた場合には、消費者はその契約を取り消すことができるという規定が付加されました。
年齢の増加に伴い物忘れが激しくなり契約を締結したこと自体を忘れて不要に同様の契約を締結してしまう等、契約を締結するか否かの判断を適切に行うことができない状態にあるような場合は、「加齢」により判断力が著しく低下しているものとして本号の対象となり得ます。
梅子さんも、加齢により判断力が著しく低下している状況下で、将来に対して過大な不安を抱いていたところ、事業者から不安をあおられる態様でサプリメントが必要であると告知されたことにより、梅子さんは自身の現在の生活の維持のためには契約を締結することが必須のものと考えサプリメントを購入してしまっています。そのため、不当にあおられたとして当該契約を取り消しうることが十分可能といえます。
過量販売による取消(消費者契約法4条4項)
事業者が消費者に対して勧誘するに際し、その消費者契約の目的となるものの分量等が当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合において、消費者がその勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしてしまったときは、これを取り消すことができると定められています。
梅子さんも、事業者の勧誘により必要以上のサプリメントを購入させられたとして、その購入契約を取り消すという方法を取ることも考えられます。
まとめ
高齢者を狙った商法は後を絶ちません。その場合は、消費者契約法による取消しを考えることができます。また、最近は、電子マネーを利用した詐欺的な商法もあります。クレジットカードが不正利用されたような場合は、クレジットカード会社に対して早期に報告する必要があります。相談窓口として、消費生活センターに相談することも有用な手段の一つとなります。
用語解説
消費者契約法改正の内容
2018年の法改正により、新たに取り消しうる契約類型が加えられました。内容としては、就活中の学生の不安を知りつつ「このままでは一生成功しない。この就職セミナーが必要。」と告げて勧誘された場合(不安を煽る告知4条3項3号)、恋愛感情を利用し「契約をしてくれなければ別れる。」と言われ購入した場合(人間関係の濫用4条3項4号)、高齢者の判断力低下の利用(4条3項5号)、霊感商法等に関する不安をあおる告知(4条3項6号)、強引な勧誘行為に関する困惑取消の拡張(4条3項7号、8号)などがあります。
執筆者:たかぎし総合法律事務所 弁護士 高岸佳子
京都大学法科大学院卒業後、2015年弁護士登録。 企業内弁護士も経験し、相続、離婚、消費者問題、刑事事件、企業法務、いじめ問題などを扱う。趣味:日本酒(純米酒)。 |