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座敷牢は過去の話か

2021年6月23日

「禁治産」と「成年後見等」

最初に,復習がてらこのコラムの「誰が成年後見の申立をできるのか?」をご覧ください。

誰が成年後見の申立をできるのか?

この「成年後見」は平成12年に民法が改正されるまでは「禁治産」という制度でした。この「禁治産」は「家」と結びついており,禁治産制度は家の財産維持が目的でした。たとえば,禁治産に準じる「準禁治産」の対象には浪費者が含まれていること,また,本人に配偶者がいる場合にはその配偶者が自動的に後見人になることなどは,禁治産制度が家の財産維持を目的としていることの表れです。家の財産維持が第一の目的ですから本人は二の次であり,極端なことをいえば本人は座敷牢にでも放り込んでおけば良いのです。

「座敷牢」というのは決して誇張ではありません。民法の起草者は,「禁治産者は必ず座敷牢に入らねばならぬ,病院に入らねばならぬと云うものではありませんけれども,元来これは心神喪失の常況に在る者というのでありますから,非常に乱暴な事をする狂人か,あるいは白痴という西も東も分からない人間である。そのような人間は警察上の理由からしても始終後見人が親族かが付いておらねばならぬ者である」(日本学術振興会「法典調査会総会議事録」第5回総会(明治26年10月31日)260頁,著者がカタカナを現代仮名遣いに改め,句読点を付しました。)と述べており,これが禁治産に対するイメージだと言っても誇張ではないと思います。

しかし,とりわけ平成になってから,禁治産の対象となる高齢者・障害者の身上監護・財産管理をめぐる問題が取り沙汰されるようになりました。高齢化が進んだこと,権利意識が高まったこと,女性の社会進出や核家族化により高齢者・障害者の介護を家族のみが担うことが,それがときに座敷牢への隔離を伴うことや,男女の雇用機会均等を妨げることに対する良し悪しの評価の問題としてだけではなく,現実の問題としても困難になってきたことが理由として挙げられます。そして,福祉サービス利用が措置から契約へ切り替わったこともあり,平成12年に介護保険法が施行されるのに機を合わせて禁治産制度も「成年後見等」制度へと変わることになりました。

成年後見等制度は,家の財産維持が目的ではなく,本人の自己決定権の尊重,さらには意思決定の支援が目的となっています。成年後見等制度が開始されて20年以上が経過し,「禁治産」そして座敷牢は最早,過去の話になったように見えます。

禁治産への「逆行」

ところが,近年になって,成年後見等制度の目的である本人の自己決定権の尊重が後退し,それを家の財産維持と言うかはともかく,財産維持のみを目的とした制度への逆行に繋がりかねない傾向が見られるようになりました。発端は平成22年に10か月間で親族後見人による着服による被害額が18億円にのぼったことです。成年後見等を利用する方の流動資産は大半のケースでは多くはありませんが,稀に多額の流動資産を有するケースがあり,そういったケースでは流動資産が多いために被害額も多くなります。

【成年後見等を利用する方の流動資産の分布イメージ】

(流動資産の額を1900万円ごとに分類したもの)

こうした親族後見人による着服を防止するために,2つの制度が広まりつつあります。

1つ目は後見制度支援信託等です。これは,本人の流動資産を金融機関へ信託又は預金するのですが,その払戻しには裁判所の「指示書」が必要です。後見制度支援信託等の概要は,最初に弁護士・司法書士が成年後見人等に選任され,信託又は預金の適否を判断し,適当な事案であれば信託又は預金した上,親族後見人に引き継ぐというものです。こうすれば親族後見人は,裁判所の指示書がない限り払い戻しができません。それは一方では着服防止になりますが,他方では,たとえ本人の意思であっても,たとえば客観的には浪費としか評価し難く払い戻す理由がないと裁判所が判断すれば,信託財産又は預金を払い戻すことができません。その結果,本人は自身の財産を自由に使うことができなくなってしまいます。これは浪費者を準禁治産の対象とした禁治産制度への逆行と評価されかねない面を含んでいます。

2つ目は,「後見監督人」で,親族後見人の財産管理を監督する者を別途選任する制度です。後見監督人の制度自体は以前からありましたが,ここ数年,多くの裁判所で,一定以上の流動資産がある場合において,後見制度支援信託等の利用がないときには,後見監督人を必ず選任する運用になっています。少なくとも,大阪家庭裁判所本庁はそのような運用になっています。後見監督人も,後見制度支援信託等と同様で,流動資産を費消する客観的な理由が存在しない場合には,監督権を行使せざるを得ません。

自身の意思を実現するためには

後見制度支援信託等にせよ,後見監督人にせよ,本人の意思決定支援を図りながら運用を行っていますが,しかし,目的としては財産維持が前面に出ざるを得ません。また,後見制度支援信託等や後見監督人の利用は,今後も減少することはないと思われますし,それ自体はやむを得ないと思います。そういった中でも本人の意思決定支援を図るためには,成年後見等の制度を利用する前から,自身の意思を明らかにしておくことなどが有効な方法かも知れません。

作成:中尾法律事務所 弁護士 中尾 太郎

大阪弁護士会所属。同会高齢者・障害者総合支援センター 介護福祉部会長。
大阪府・障がい者介護給付費等不服審査会 委員。
全国倒産処理弁護士ネットワーク所属。
高齢者に関する法律問題を中心に、各地で講演を行う。

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