介護老人保健施設つくも ~人と人をつなぐ仕事に心を注いで~

吹田市の「介護老人保健施設つくも」は、静かな環境に包まれた千里ニュータウンにあります。1970年大阪万博の頃から開発された団地に入居した人たちが介護を必要とする世代を迎え、地域に密着している施設です。介護福祉士の一丸友樹(いちまる・ともき)さんは「人と人をつなぐ仕事です」と話しています。
施設の特色を教えてください。
つくもは、地域社会との関係を重視しています。地域の方との交流が多く、ハーモニカや喫茶のコーヒー提供などさまざまな形でボランティアを受け入れています。高齢者雇用を担う介護助手もお願いしています。こうした地域と交流する活動は今、新型コロナウイルス対策のために中断しているので、早く元に戻ることを願っています。
一丸さんの仕事と役割をお話しください。
認知症専門フロアの責任者を務めています。この施設で働いて13年目になります。介護で社会の役に立てたらいいな、とヘルパー2級の資格を取得してこの分野に入りました。認知症介護実践リーダー研修を終えた私と、実践者研修を受けた職員3人と合わせて4人が認知症実践者チームとなって、利用者さん一人一人のケアの進め方を相談します。
利用者さんが施設に慣れなかったり、「私の居場所がない」と感じたりする入所から間もない時期の関係づくりを重視しています。初期の段階に利用者さんに集中的にかかわって、顔を覚えてもらえるなじみの関係を築くことが特に大切だと考えています。
利用者との関係がわかるエピソードはありますか。
部屋に閉じこもって「入って来るな」と言い張る認知症の男性がいました。「おれなんかええねん」と自暴自棄になっていました。何とか部屋に入って、そばで話を聞きました。「妻のためや」「おれが家にいると、妻が大変なめにあうんや」と涙ながらに話されました。号泣して胸につかえていたことを吐き出すことができたのか、それからは落ち着かれました。
涙を流され家族への感謝と思いやりの温かい気持ちに触れたとき、「これなんや」とやりがいを感じました。介護職とは、人と人をつなぐ仕事だと考えています。
介護で大切にされていることはどのようなことでしょうか。
大声を出したり、介護する職員の手を払いのけたり、不安な思いが行動に出る状態を行動・心理症状といいます。行動・心理症状には何か、その理由があります。ご本人が不安な気持ちを表に出しているときこそ、その人を知るチャンスだと考えています。
深くお話を聴くと、不安や怒りの先には必ず大切な人の存在が見えてきます。その人のことを尋ねると、どれだけ大切なのか、どうしたいのか語ってくれます。そうすれば何がその方にとって大切なのかが見えてきます。
花に水やりをする、書き物をする、洗濯物を畳む、洗い物をする……。できることを一緒にやります。今でもできることがあると、その人の生きがいにつながります。いかに相手を知ることができるのか、それがポイントになります。丁寧に介護することを繰り返す日々の積み重ねです。
おれんじねっとを通じて、伝えたいことをお願いします。
「認知症だから何もわからない」と考える方がいらっしゃいますが、そうではありません。直前にやったことや、これからすることは忘れてしまうこともありますが、その瞬間、その瞬間のことはよくわかっていると思います。わかっているけど、正しい答えを伝えられないだけ。だから、何回も伝えて欲しい。入所者さんのためにも、社会に向けても、認知症に対する理解が広がるように、今できることを積み重ねていきます。
自らも介護の現場で働いた経験があり現場の事情をよく知る事務長の松本庸介(まつもと・ようすけ)さんに今後の方向性について、お話を聞きました。
つくもは今までもさまざまな地域の人に支えられてきた施設です。これからも地域社会や地域の人との関係を大切にしていきます。高齢になっても介護助手としての就労やボランティア活動など、地域の人が活躍できる場を常に提供できるように努めます。
認知症についても施設入所から在宅支援まで幅広い相談ができ、気軽に立ち寄れる開かれた施設を目指しています。そして、より良いケアを行う為にはやはり職員が元気であることが大切です。働きやすい職場環境を整えていきたいと考えています。
施設紹介
社会医療法人愛仁会 介護老人保健施設つくも
所在地:大阪府吹田市津雲台4-7-2
電話:06-6872-0270
入所定員:90人
通所定員:50人
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執筆:おれんじねっと記者 中尾卓司
1966年4月、兵庫県丹波篠山市生まれ。 |