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財産管理の方法―民事信託を利用して

2020年11月13日

通常、自分の財産は、自分で管理することになりますが、加齢により判断能力が低下すると、財産の管理は難しくなります。そして、認知症になり、判断能力がなくなると、自己の不動産を処分したり、預金を引き出すなど、法律上、自分の財産の管理・処分ができなくなってしまうことになります。

では、将来、認知症になり判断能力が失われた場合に、財産管理を行う方法はあるのでしょうか。

以下では、認知症になった場合に備えて、財産管理を行う方法についてご説明します。

田中一郎さん(仮名)の事例

田中一郎さんには、妻の良子さんと、一郎さん名義の不動産に2人で生活していましたが、良子さんは昨年の春頃亡くなり、現在は、一郎さんが一人で暮らしています。一郎さんには、別居の一人息子である田中次郎さんがいます。一郎さんは高齢のため、判断能力は低下しつつあり、将来、認知症にかかり判断能力がなくなったら介護施設に入所しようと考えています。介護施設に入所した場合、自宅が空き家になりますが、一郎さんには、判断能力がないため、自分で自宅を管理処分することはできません。そこで、一郎さんは、認知症により判断能力が失われ介護施設に入所したときは、次郎さんに自宅を管理処分してほしいと考えています。

では、判断能力がある段階で、認知症により判断能力が失われた場合に備えて、一郎さんにできることはあるのでしょうか。

民事信託(家族信託)

民事信託の内容

認知症により判断能力が失われた場合に備えて財産管理を行う方法として民事信託があります。

信託とは、文字通り、信用して委託することをいいますが、法律上は、信託とは、ある人が、特定の人に対し、一定の目的に従い自分の財産の管理や処分等をしてもらう方法をいいます。

そして、民事信託には、委託者、受託者、受益者の3者が登場します。委託者は、特定の財産の管理処分等を委託する人です。受託者は、委託者から財産の管理処分等を委託された人です。

そして、受益者は、財産の管理処分等により得られた利益を受け取る権利を有する人であり、委託者と同じ人でも構いません。

そして、民事信託のうち、家族間での信託を家族信託といいます。

田中一郎さんの事例では、一郎さんと二郎さんとの間で家族信託を行い、一郎さんが認知症により判断能力が失われてから、一郎さんが委託者・受益者、次郎さんが受託者として自宅の管理等を行うことになります。そして、一郎さんが死亡した場合には、信託が終了し、一郎さんの財産が次郎さんに移転することになります。

民事信託(家族信託)の使い道

民事信託の使い道として、認知症対策についてご説明しましたが、他にも様々な使い道があります。例えば、障害のある子どもの親が、将来、子どもの支援を行えなくなる場合(親なき後問題等)に備えて、親を委託者、親族を受託者、子どもを受益者とする家族信託が考えられます。また、高齢者が財産をだまし取られる事件などがありますが、高齢者の財産を守るために、親を委託者・受益者、親族を受託者とする家族信託も考えられます。

まとめ

今回は、認知症で判断能力が失われた場合に備えた、財産管理を行う方法についてご説明しました。

民事信託を利用することで、将来、判断能力が失われたとしても、委託者の目的に従った、財産の管理処分等を行うことができます。

なお、民事信託は財産管理の方法の一つであり、それ以外にも、成年後見、任意後見、財産管理契約等がありますので、どの方法が適切かどうかは、個々人によって異なります。

用語解説

  • 信託法上の「信託」とは
    信託契約、遺言、書面又は電磁的記録によってする意思表示のいずれかの方法により、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除きます。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいいます(信託法2条参照)。
  • 親なき後問題とは
    何らかの障がいを持っている子どもや自分では財産管理ができない子どもの親が支援している場合で、親が先に亡くなった後や親が子の面倒を見れなくなったとき、どのようにしてその子どもを支援していくのかという問題をいいます。

 

執筆者:山口心平法律事務所 弁護士 服部弘

大阪弁護士会所属。大阪府大阪市出身。2019年弁護士登録。
多種多様な一般民事・家事事件を取り扱う。
趣味は自転車。

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