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【財産管理】認知症への備え~任意後見契約について~

2020年7月13日

年金だけで、介護施設の費用を支払えない場合、支払いはどこから支払いますか。
これまで蓄えてきた預金口座の解約や引き出し、不動産の売却、不動産を担保にしての借入、保険の解約等で介護施設費用をまかなうことが多いのですが、認知症になると、このようなことができなくなってしまいます。

大阪市にお住いの鈴木さん(仮名)の事例

事故が原因で認知機能が衰え一人で生活できない状態に

大阪市にお住いの鈴木孝明さん(仮名)は、元気に一人暮らしをされていました。
ある日国道沿いの歩道を歩いていると、自転車が飛び出してきました。避けようとして転倒し、長期間の入院をすることになりました。

孝明さんは、不幸にも、長期間の入院生活によって、孝明さんの認知機能は衰え、一人で生活することができない程になってしまいました。

孝明さんには、息子の鈴木幸一さん(仮名)と娘の田中由美子さん(仮名)がいらっしゃいます。由美子さんは、自宅から孝明さんの通帳を見つけ、入院費用や治療費を支払おうとしましした。しかしながら、銀行は、孝明さん本人ではないので、引き出しはできないと言います。

孝明さんは、認知症と事故の後遺症のため、とても銀行に行って手続きをすることができるような状況ではありません。

成年後見の申し立て

そこで、由美子さんは、成年後見の申し立てを行いました。
そうすると、家庭裁判所は、成年後見の申立を認めました。しかし、幸一さんと由美子さんが、成年後見の申立をするかどうかということで、喧嘩になってしまったために、後見人には弁護士が就任することになりました。

孝明さんは、弁護士が自分の通帳や財産を管理することに複雑な気持ちを持っています。これまで、自分で自由に使ってきたお金も自由には使えなくなりました。
自分のお金なのに、いちいち他人の弁護士に確認しなければならないことについて煩わしい思いをしています。

任意後見契約という準備

自分のお金は、たとえ認知症になっても、自分の意思で使い道を決めておきたい、誰に管理をしてもらいたいということは、大切なことです。

しかしながら、認知症になり、意思能力がないと判断されると、自分のお金であっても自分で使い道を決めることはできません。お子さんがいても、お子さんが必ず管理するわけではありません。

孝明さんが、もしあらかじめ任意後見契約をお子さんとの間で締結をしていれば、誰に後見人になってもらうのか、どの範囲の後見事務を委任するのか、認知症になってもどの範囲は自分で行うのか等について、自由に決定することができます。また、このような話し合い家族の中で行って、任意後見契約を締結することで、孝明さんの気持ちや考え方が幸一さんや由美子さんにも伝わる良い機会にもなります。

まとめ

任意後見契約は、本人が契約の締結に必要な判断能力を有している間に、将来自己の判断能力が不十分になったときの後見事務の内容と後見する人(任意後見人のことです)を、自ら事前の契約によって決めておく制度です。認知症の不安を覚えたら、万が一に備えて任意後見契約をご検討ください。

用語解説

  • 成年後見とは
    認知症、知的障害、精神障害、発達障害などによって物事を判断する能力が十分ではない方(ここでは「ご本人」といいます。)について、ご本人の権利を守る援助者(「成年後見人」等)を選ぶことで、ご本人を法律的に支援する制度です。
  • 任意後見契約とは
    ご本人に十分な判断能力があるうちに、判断能力が低下した場合には、あらかじめご本人自らが選んだ人(任意後見人)に、代わりにしてもらいたいことを契約(任意後見契約)で決めておく制度です。家庭裁判所パンフレット「成年後見制度―利用をお考えのあなたへー」5頁より

執筆:山口心平法律事務所 弁護士 山口心平

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