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死後事務委任契約について

2022年3月1日

自分が生存中の間に、自己の財産管理や身の回りに不安があれば、第三者に委任をしたり、任意後見契約を締結をすることによって、不安を解消することができます。

一方、自分が死亡後の不安については、生前、遺言を作成することによって一部は解消できますが、遺言で法的に効力が生じる事項(以下「遺言事項」といいます。)は法律で定められたものに限られます。そのため、遺言によって、死後の不安を全て解消することができるわけではありません。
遺言によってカバーできない部分をカバーするものとして死後事務委任契約があります。
以下では、死後事務委任契約についてご説明します。

死後事務委任契約の有効性

死後事務委任契約とは、委任者が第三者に対して、死亡後の諸手続、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等に関する代理権を付与して、死後事務を委任する契約をいいます。
では、そもそも、死後事務委任契約は有効なのでしょうか。

民法653条第1項は、次のとおり規定しています。
「委任は、次に掲げる事由によって終了する。一 委任者又は受任者の死亡・・・」

この規定からすれば、死後に効果が発生する死後事務委任契約は、委任者が死亡することによって終了することになるので、死後事務委任契約が無効となります。
もっとも、判例(最判平成4年9月22日金法1358号55頁)は、以下のとおり判旨しています。

「・・・しかしながら、自己の死後の事務含めた法律行為等の委任契約がAとBとの間に成立したとの原審の認定は、当然に、委任者Aの死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく、民法653条の法意がかかる合意の効力を否定するものでないことは疑いを容れないところである。

しかるに、原判決がAの死後の事務処理の委任契約の成立を認定しながら、この契約が民法653条の規定により委任者の死亡と同時に当然に終了すべきものとしたのは、同条の解釈適用を誤り、ひいては理由そごの違法があるに帰し、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであると言わなければならない。・・・」

このように、民法653条第1項は任意規定であり、上記判例によれば、死後事務委任契約は有効となります。

死後事務委任契約の締結について

まず、死後事務委任契約はどのように締結することができるのでしょうか。
そもそも、契約は口頭で行うことができますが、契約後のトラブルに備えて書面を作成することが通常です。そして、死後事務委任契約についても一般的には書面で行うことになります。

もっとも、死後事務委任契約の効果が発生するのは委任者の死後になるので、その契約が真正に成立したかどうか問題となる場合に備え、死後事務委任契約は公正証書により締結することが多いです。

死後事務委任契約とは別に、生前、判断能力が低下した場合に備えて行う任意後見契約があります。任意後見契約は、公正証書より行わなければなりません。そこで、生前、任意後見契約と死後事務委任契約を併用して公正証書により締結することもあります。また、公正証書遺言を作成する場合、別途、死後事務委任契約を締結する場合もあります。

公正証書で死後事務委任契約を行う場合には、次の①から③のうちいずれかの書類を用意する必要があります。手続の具体的な流れについては、公証役場にお問い合わせください。

①印鑑登録証明書(3か月以内)と実印
②運転免許証と認印
③マイナンバーカード(個人番号カード)と認印

死後事務委任契約でできること

死後事務委任契約でできることは以下のとおり限られています。

①遺言事項には該当しない事務であること
②その他法令上事務を行う資格が限定されていない事項(保存行為等)

①の具体的な遺言事項については割愛しますが、死後事務委任契約で締結される事務としては、医療費の支払いに関する事務、通夜・告別式・火葬・納骨・埋葬に関する事務、永代供養に関する事務、賃借建物の明渡しに関する事務、行政官庁等への届け事務、相続財産管理人の選任申立手続に関する事務などが挙げられます。

②について、死亡届については、戸籍法87条において以下のとおり届出ができる者が限定されているため、死後事務委任契約で死亡届について記載したとしても、受任者というだけでは死亡届は受理されません。

戸籍法87条第1項「左の者は、その順序に従って、死亡の届出をしなければならない。・・・

第1 同居の親族
第2 その他の同居者
第3 家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人」

同条第2項「死亡の届出は、同居親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人及び任意後見人も、これをすることができる。」

まとめ

自分の死後について、遺言によりカバーができる点とそうでない点があります。遺言によりカバーできない点について、死後の不安の解消や希望を叶える方法として、死後事務委任契約がありますので、死後事務委任契約を利用することも検討してみてください。

執筆者:山口心平法律事務所 弁護士 服部弘

大阪弁護士会所属。大阪府大阪市出身。2019年弁護士登録。
多種多様な一般民事・家事事件を取り扱う。
趣味は自転車。

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