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痴呆から認知症へ

2020年3月10日

痴呆と表現された時代

2000年代の始めまでは、認知症という言葉は存在していなかった。現代では一般化している認知症は「痴呆」と表現され、年を重ねることにより起こる一つの病気と認識されていた。
当時では医療現場、行政用語でも痴呆というのが当たり前だった。しかし、痴呆の予防啓発を進めるために活動すれば、市民からは「失礼だ」「そんな侮辱的なものに参加したくない」といわれることが多かった。

痴呆という言葉の由来を調べた厚生労働省の資料によると、認知症を表す英語「Dementia」は、明治初期の医学用語書には「狂ノ一種」と記されていた。その後は「痴狂」「瘋癲」「痴呆」などと訳されていたが、明治末期には「狂」の文字を避ける観点から「痴呆」を提唱して、定着した。しかし、高齢化が進む日本では「あほう」「ばか」などの侮辱的な意味をもつこの言葉は、ふさわしくないと国は判断した。

認知症という言葉の誕生

痴呆という言葉を差別的に使っている人はいなかっただろう。しかし、それまで当たり前に使っていた人も「よく考えればひどい言葉だ」と認識するようになり、認知症研究での第一人者、聖マリアンナ医科大学名誉教授の長谷川和夫先生は、呼称を変える要望書を厚生労働大臣宛てに提出した。
それにより、「痴呆に変わる用語を検討する委員会」が2004年の6月に開かれた。

委員会ではまず、一般の人にわかりやすく、不快感や侮蔑感を覚えさせないものにしようと進められた。一般からの意見を募ったところ多数の応募があり、その中から「認知障害」「認知症」「アルツハイマー」「物忘れ症」の4つの候補がまとめられた。
「認知障害」と「認知症」の得票数が多く、「認知」を含む用語の提案が多かったことから「認知」系の用語の支持が最も高かった。
「認知障害」については、精神医学の分野でこれまで多様に使われていたが、一方「認知症」は新たな語であり、医学用語として採用される蓋然性も高いと考えられた。
「〜障害」という表現は症状が固定している印象を伴うが、痴呆は一部治癒若しくは症状が安定する場合がある一方で、多くの場合は進行性であることから症状は固定していなく、こうした実態に合わないとも考えられた。

参加している委員の議論により、同年の12月末には報告書が提出され、以降から現在で「認知症」という言葉はすっかり浸透した。

表現が変わることによる社会の変化

痴呆という言葉で懸念していた高齢者も、認知症という言葉に置き換えられたことにより、予防イベント等への参加がしやすくなっていった。言葉が与える力は大きく、それが不快感であればなおさらだ。
名称が変更されて15年以上が立ち、日本の高齢化は急激に進んでいく一方だ。問題を抱えているからこそ、こういった表現に慎重にならなければいけない。
認知症では本人を尊重することが何より求められており、本人もそれを望んでいる。超高齢化社会の日本では、周りの環境が認知症をよく知り、受け入れ、支え合っていく必要がある。

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