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認知症の高齢者と不動産売買

2021年7月21日

日本は、高齢者の人数が徐々に増え「超高齢社会」となっています。日本の高齢化は今後も加速し、高齢になるほど発症リスクが高まる病気として「認知症」があります。
そのような認知症の高齢者の方と高齢者の方所有の不動産売買契約との関係について考えます。

友蔵さんの場合

①友蔵さんは認知症ですが、一人暮らしをしています。ある日、息子が友蔵さんの家に行くと見知らぬ不動産売買契約書が置いてあります。友蔵さんの自宅は、友蔵さんの唯一の財産です。息子が問いただすと、友蔵さんは、「確かに俺の字だけど覚えていない。」と述べています。この契約は有効となるのでしょうか。

②友蔵さんの息子は、友蔵さんの介護費用捻出のため、友蔵さん所有の不動産を売却したいと考えています。どのようにすればいいのでしょうか。

①認知症の高齢者が不動産を売却してしまった場合

まず大原則として契約が有効とされるためには、各当事者に意思能力があることが必要とされます。意思能力とは、有効に意思表示をする能力のことをいい、具体的には自己の行為の利害得失を判断する知的能力のことをいいます。

そのため、本件売買契約においても、不動産売買により不動産の所有権が買主のものになること、その代わりに売主(父親)は代金の支払いを受けることについて認識・判断できる能力が必要となります。

もっとも、認知症といっても、その程度や症状は様々であり、認知症であるからといって直ちに意思能力が否定されるわけではありません。

意思能力の有無については、医学上の評価、年齢のほか、契約締結前後の言動や状況、契約の動機・理由、契約に至る経緯、契約の難易度、契約の結果の軽重、契約内容が客観的に見て合理的かといった点を総合的に考慮して判断することになります。

そのため、友蔵さんの場合も、認知症のため、記憶や見当識等社会生活状況に即した合理的な判断をする能力が著しく障害され、自己の財産を管理・処分するには常に援助が必要な状態であったこと、友蔵さん唯一の自宅を失うという契約内容が極めて不合理であること

などが認定されれば意思能力が否定され、本件売買契約が無効になる可能性が十分にあります。

②認知症の高齢者の代わりに不動産を売却したい場合

上記の場合とは別に、認知症になってしまった親の代わりに不動産を売却して、「介護費用を捻出したい。」などと考えた場合、どの様な方法があるのでしょうか。

不動産所有者が重度の認知症である場合、高齢者が委任状を用意して子供などを代理人として不動産を売却することはできません。

認知症で「意思能力」がなくなっていると判断される場合、「この人を代理人に任命します。」という意思をしっかりと示すことが出来ないとされ、そもそも法的に有効な代理人を立てることができないためです。

もっともこのような場合でも、「成年後見制度」を利用すれば不動産を売却することが可能になります。

「成年後見制度」とは、認知症や知的障害などの理由で知的能力の不十分な者の保護を目的として、保護を受ける本人の自己決定を尊重しつつ、補充的に必要な限度で法を介在させる制度です。

成年後見制度には、大きく分けると「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。

法定後見制度には、さらに「成年後見」「保佐」「補助」の3種類があり、本人の判断能力に応じて利用できます。

友蔵さんの場合も、友蔵さんの判断能力に応じて、「法定後見制度」を利用することにより、友蔵さんの代わりに不動産売買契約を締結することができます。

まとめ

高齢者を狙った不動産の売却は阻止されるべきである一方、売却すべき場合には有用な手段を選択していく必要があります。

用語解説

「任意後見制度」

本人が自己の判断能力が不十分になった場合に備えて、自己の生活に必要な法律行為を代わりにすることを、予め他人に委ねておくことを認める制度。

「成年後見」

精神上の障害によって判断能力を欠くことが普通の状態である者を対象として(民法7条)、保護者として成年後見人が付されます(民法8条)。成年被後見人は、日常生活に関する行為を除き、自ら財産上の法律行為をすることはできず、成年後見人が代理することになります(民法9条)。

「保佐」

精神所の障害によって判断能力が著しく不十分である者を対象として(民法11条本文)、保護者として保佐人が付されます(民法12条)。財産上の重要な行為については、保佐人の同意が必要となります(民法13条)。

「補助」

精神上の障害によって判断能力が不十分である者を対象として(民法15条1項本文)、保護者として補助人が付されます(民法16条)。補助人の同意を要するとされた法律行為をするには、補助人の同意が必要となります(民法17条)。

執筆者:たかぎし総合法律事務所 弁護士 高岸佳子

京都大学法科大学院卒業後、2015年弁護士登録。

企業内弁護士も経験し、相続、離婚、消費者問題、刑事事件、企業法務、いじめ問題などを扱う。趣味:日本酒(純米酒)。

 

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