1回きりの「子どもの日の行事食」 ~エビフライで鯉のぼり~
高齢者施設では、日頃の食事に変化を出すために、行事食が頻繁に登場します。5月5日の子どもの日は、『こどもたちの人格を重んじ、幸福をはかるとともに、お母さんにも感謝する日』と、祝日法に記載しています(お母さんはもちろんですが、お父さんにも感謝しないとですね)。
子どもの日によく食卓に上るものを調べてみると、「柏餅」(35%)が一番多く、「ちらし寿司」(31%)、「ちまき」(12%)と続いていました。西日本と東日本で比較すると結果が少し違っているようで、「ちらし寿司」は西日本で28%、東日本では34%と、東日本の方が「ちらし寿司」を食べる人が少し多い結果となったようです(情報サイトhttps://iko-yo.net より抜粋)。
当施設の子どもの日の行事食を振り返ってみると、「ちらし寿司」は雛祭りのイメージがあり、以前からオムライスを採用していました。当初はオムライスだけでしたが、いつの間にかオムライスにハンバーグやエビフライが加わり、お子様ランチを思い浮かべるような献立が最近の主流でした。
最近は、インターネットで画像検索をし、いろいろな料理を発掘しては、施設の献立に反映してくれている調理師さん。子どもの日の献立の見直し時期に、ふと、利用者様は、このお子様ランチのような食事が運ばれて、子どもの日の行事食だと気づいてくださるのか?と、疑問に思ったようです。試行錯誤と画像検索を繰り返し、今年はどうしても見た目にこだわりたいということで、エビフライを鯉のぼりに見立てた献立が完成しました。
イメージした献立で考えると、エビフライ3尾は絶対に譲れないと言う調理師さん。委託会社の栄養士さんと施設管理栄養士(私)で材料費の計算です。「冷凍のエビフライの大・中・小のサイズのものを利用したら?」という私に、「冷凍のエビフライって意外と値段が高くて・・。2尾ならなんとか対応できますが、3尾となるとかなりの予算オーバーです」と、頭を悩ませる委託会社の栄養士さん。「それなら2尾でいいやん」という私に、「それなら予算にあったエビを仕入れて欲しいです。自分で殻をむいてまっすぐに伸ばす作業をしてから衣をつけるので、エビは1人前3尾にしてください」と懇願する調理師さん。せっかくのアイデアなので、作りたいものを作っていただきたいということで、予算にあったエビを探して仕入れることになりました。
子どもの日の前日、数時間かけて360尾以上のエビの殻をむき、いそいそと背ワタを取って下処理をする調理師さん。子どもの日の当日は、サイズの違うエビフライを一皿ずつ選びながら、盛り付け、鯉のぼりの目をかく調理師さん。出来上がりは満足の出来栄えだったそうですが、「来年は絶対にこの献立はやらない!もう2度とムリムリ。ホンマにしんどかったです」と宣言、今年一回きりの献立となってしまいました。
利用者様に配膳するとき、もし子ども扱いだと気分を害する方がいらっしゃったらどうしよう。と少し頭をよぎりました。エビフライを頬張る利用者様に、「エビフライで鯉のぼりをイメージしていたのですが、すごく手が込んだ料理でしょう」と話しかけると、「あら、そうだったの。食べちゃったから気づかなかったわ」というお返事が。そんな中、「私らのころはこんなご馳走、作ることなかったね」「うちは子供の日はエビフライじゃなくて鶏の唐揚げやったわ」という会話が聞こえました。
調理師さんの想いが伝わったかはわかりませんが、行事食は食を通じて昔を思い出していただいたり、会話のコミュニケーションが生まれることが目的でもあるので、頑張って頂いた甲斐はあったのかなと思いました。