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介護老人保健施設さやまの里~「食べることは生きること」歯と食にこだわり~

2020年10月21日

「介護老人保健施設さやまの里」(大阪狭山市)には、管理栄養士2名が働いています。老健施設として歯の健康と食にこだわり、昼食と夕食は、2種類のメニューから選べる選択食を続けています。管理栄養士の西田有里(にしだ・ゆり)さんは、その取り組みについて「食べることは生きること」と強調していました。

「さやまの里」の特色を教えてください。

認知症専門の医療の提供と介護サービス事業者との連携を担う中核機関として指定を受けた認知症疾患医療センターを併設しています。また、施設長が歯科医というのも、大変珍しく、10年以上前から歯科衛生士がいる施設は全国的にみても少ないと思います。

西田さんのお仕事について、お話しください。

この施設では2名の管理栄養士が勤務していますが、老健に管理栄養士が2人いるのは珍しいでしょう。

利用者さんの栄養管理のほかに、昼食と夕食を毎回、2種類から選べる選択食にしています。ワゴンにその日のメニューの実物を載せて、利用者さん一人一人に豚肉の生姜焼きか、サバの塩焼きかといった2種類のメニューから好きなほうを尋ねて回り選んでもらいます。老健はリハビリ施設のため利用者さんは日中活動しています。体力を養うには食事をしっかり食べることが基本です。好きなものに偏るのではないかと思われるかもしれませんが、リハビリに耐えられる体力をつけるためにも、食べたいものを食べて頂きたい。選択食は利用者さんの顔を見て声を掛け食を通したコミュニケーションの機会にもなっています。

利用者さんとの関係では、どんなエピソードがありますか。

胃に穴を空けてチューブから栄養を補給する「胃ろう」の女性がいました。脳出血のために嚥下障害が残っていましたがそれでも、ご家族は少しでも食べさせてあげたいと願っていました。希望に添えるよう唾液を飲み込めるか、噛むことができるか、少しずつ確認し、おやつのゼリーから始めて、スプーンを持つ練習を重ねました。おかゆを少しずつ食べ始めて、1年後には自分で食べられるようになりました。食べることができるようになると、まったく表情がなかった女性に笑顔も戻りました。

どのような取り組みをされていますか。

認知症が進むと、「食べもの」がわからなくなったり、食べたつもりで「お腹がいっぱい」と思うことがあります。いつもは食が細い方でも「おいなりさん」など、食べ慣れたものなら食が進むこともあります。
食べることもリハビリと捉えていますので、食べられる口作りにも取り組んでいます。食事の前には口の動きをよくするための口腔体操です。例えば口を開けたり、舌を出したり、発声練習をするのが食べる前の準備体操です。昼食の時間には介護士、看護師、歯科衛生士、ケアマネジャー、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士が食堂に集まり、テーブルやイス、車イスの高さが合っているか、食器の種類が個々に合っているかなど多職種で確かめます。必要であれば併設の大阪さやま病院の歯科を受診することもでき、歯科衛生士も付き添います。
老健のリハビリは様々な専門職が知恵を出し合う「最後のとりで」といえます。

おれんじねっとを通じて、伝えたいことをお願いします。

この施設ではポリファーマシー(多剤併用)の問題に取り組んでいますが、時には薬でコントロールすることも必要です。認知症の人には、それぞれに応じた適切なケアがあり、対応には介護の力で利用者さんに寄り添うことで不安が和らいだりぐっすり眠れるなど、薬の効果に相乗できることもあることを知っておいてほしいと思います。
食べることを通して、生命にかかわる仕事に携わっていることを実感しています。
食べることを通して笑顔で元気になり、「さやまの里に来てよかった」と言っていただけることが私たちの喜びです。

歯科医師でもある施設長の阪本秀樹(さかもと・ひでき)さんに、歯の健康と口腔(こうくう)ケアの大切さについて、お聞きしました。

咬むことは、脳にも体にも影響を及ぼします。歯の健康を保つには、口腔ケア、特に歯磨きが最も大切です。きちんと咬める奥歯のあるなしが、認知症に掛かりやすいかどうかに関係することを示す研究データもあります。奥歯で咬むと、脳を刺激し、脳を活性化します。奥歯で食いしばれると、握力も増し、日常生活動作(ADL)も改善します。
5人に1人が認知症になる時代に、認知症は避けられません。認知症の方に適切なケアとサービスを提供して、認知症なら「さやまの里」に相談しようと信頼される存在になりたい。そう願って多職種の職員が一緒になって取り組みを続けます。

施設紹介


医療法人六三会 介護老人保健施設さやまの里
所在地:大阪狭山市岩室2丁目185-11
電話:072-365-5878
入所定員:75人
通所定員:40人

執筆:おれんじねっと記者  中尾卓司

1966年4月、兵庫県丹波篠山市生まれ。
1990年4月、毎日新聞入社。大阪社会部、外信部、ウィーン支局、社会部編集委員を経て、2020年3月、毎日新聞を早期退職。記者一筋に30年の経験を生かして、おれんじねっとの取材チームに加わり、記者活動を展開中。「つなぐ、つながる、つなげる」を掲げて新しい情報発信のかたちを提案している。
大阪大学箕面キャンパス「現代ジャーナリズム論」非常勤講師
関西大学社会学部「ジャーナリズム論」「時事問題研究2」非常勤講師

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