春を感じる食卓 第一弾 ~食べることで春を味わう~
今年の桜の開花予想は3月11日と観測史上最も早い開花となり、満開の桜を目にする季節がやってきました。
当施設では例年、利用者様と数日間かけてお花見に出かけています。ある時は狭山池の周りを3㎞歩いたり、またある時はジュースを飲みながら桜の下で花びらが舞い散るのを見上げたり。「家族に見せたいから写真を撮ってほしい」と言ってくださるほほえましい場面もあります。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で、昨年から利用者様は外出を控えなければならない環境で過ごされています。施設館内は空調が効いているため、寒い暑いは感じにくい環境となっています。定期的な外出は季節の移り変わりを確かめる貴重な時間でしたが、今年も現段階では外出できる状況ではなさそうです。屋上から眺める桜の木はあまりにも小さく、高齢者には確認しづらい距離なのが残念です。
当施設の給食は全面業務委託を取り入れ、委託先から派遣されている栄養士、調理師が献立から発注、調理、配膳まで責任もって実施しています。利用者様に「美味しい」と言って喜んでいただきたいという想いは委託先の栄養士、調理師も同じで、いつも一緒にアイデアを出し合い、意見交換をしています。
食事の献立を確認する際は、季節の食材が使用されているかの確認をしています。今の時期では「木の芽」や「たらの芽」、「筍」に「菜の花」が登場しています。しかし、食事で春を感じていただくにも限界があり、「春が来た!」を伝えるには少々物足りなさを感じていました。
日ごろから積極的に手作りおやつを提供してくれている調理師の提案で、花見に外出できなくなった昨年から、「桜漬け」を使用した手作りおやつをお出ししています。昨年登場した「桜餡入り水まんじゅう」や「桜漬け入りういろう」は、硬さや滑らかさを試行錯誤したメニューです。「こんなのどこで売ってるの?」「お店から買ってきているの?」と、完成度の高さに驚かれていました。
先日の新メニュー「桜羊羹」は、小豆と桜餡とゼリーの3層からなるとても手の込んだ羊羹でした。3色のゼリーを1つ1つ桜の型抜きをし、散りばめて夜桜をイメージしています。「フォーク刺すのもったいないわ」「外はちょうど桜の季節やねんな」と、満開の桜の木を思いながら、春を味わわれた1日でした。
認知症の症状の1つに「見当識障害」があります。これは、時間や場所の感覚がわかりにくくなる状態です。利用者様との日常会話では、「今日も出勤の時に雨が降っていましたよ、まだ梅雨は続きそうです」「まだ夏が始まったところなのに外はカンカン照りで暑くて汗だくになりましたよ」と、季節がわかるような内容を意識してお話しています。
「桜を見ながら食べたらもっと美味しいやろうな」と言っていただいたときには、見た目と味で気づける季節を提供するのも、食事ならではの強みだと改めて思います。来年こそは花見ができる平和な世の中であってほしいと願わずにはいられませんでした。
執筆:介護老人保健施設さやまの里 管理栄養士 西田 有里
この献立コラムは、介護老人保健施設さやまの里(大阪狭山市)の管理栄養士、西田有里さんが書いています。さやまの里では毎日昼夜、利用者さんはメニュー2種類から食事を選びます。食事の選択を聴いて回ることで利用者さんと食を通したコミュニケーションを深めています。