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介護老人保健施設やまき・あべの苑~笑顔のケアで在宅復帰のお手伝い

2022年1月11日

介護老人保健施設やまき・あべの苑は、地下鉄御堂筋線昭和町から徒歩3分の便利な場所にあります。大阪で初めての全室個室のユニット型を取り入れた老健施設として、2006年に開設されました。10人単位の少ない人数の家庭的なケアを基本に、多職種の職員は、なじみのある利用者さんの在宅復帰と生活を支える仕事のやりがいを笑顔で紹介していました。

作業療法士の西村慧(にしむら・さとし)さんは「利用者さんの困りごとや思いをしっかり聞き取ることも大切な仕事です」と語っていました。

やまきあべの苑では、理学療法士4名と作業療法士1名がいます。
利用者さん1人に理学療法士か作業療法士一人が担当し、利用者さんは週2回、20分のリハビリに取り組みます。20分は、認知課題訓練はもちろん、困りごとや思いをしっかり聞き取る時間にも使えます。

リハビリ職員が聞いた困りごとや思いを他職種の職員やご家族とも共有することが大切だと思います。それらを尊重しここで穏やかに過ごされているとご家族も安心し、「これなら家に帰れるかもしれない」と在宅復帰に繋がる可能性があるからです。

私が考えた標語「手洗いが命を守る第一歩」は、全国老人保健施設協会の今年度の安全推進月間のポスターに採用されました。笑顔の多い職場で職員同士がわいわい言い合いながら、一緒に標語を考える雰囲気を楽しんでいます。

認知症であっても、自宅で過ごせるように、在宅復帰が大きな目標になります。

理学療法士の島田麻衣(しまだ・まい)さんは「ちぎり絵のような取り組みができることも老健のよさです」と話していました。

老健のリハビリは、利用者さんの思いにどれだけ寄り添えるかが課題になります。
リハビリの間も、コミュニケーションをとり続けていると相手も気を許して話してくれることがあります。ほとんど歩けなくなった利用者さんが「長い間、桜を見てない」と話してくれたことがありました。
元々、施設お近くにお住まいの方で、毎年近くの高校のきれいな桜を楽しみにされていました。コロナ禍で外出が難しくなったので、「来年、桜が咲く時期に歩いて見に行けるよう、歩く練習をがんばりましょう」と話してリハビリに取り組みました。
その結果ご本人のやる気につながり、歩けるようになったんです。

歩行訓練を行い、持久力や筋力を回復させるだけでなく、メンタル面のケアも大切です。具体的な目標があると、メンタル面も安定し、リハビリの意欲向上にもつながると考えます。

認知面が低下した利用者さんは手先が器用な方でしたので、ちぎり絵で富士山を描くことを提案しました。4カ月かけて大きな作品を完成させ秋のイベントに作品を展示することができました。

ちぎり絵には頭を使う効果があり作品が完成する頃には認知面や動作面の改善がみられました。
ご本人の好きなとこや得意なことをリハビリに取り入れることで、成功体験を積み重ねることができます。
それにより様々なことへの自信にもつながります。
みんなでちぎり絵のような取り組みができることも老健のよさです。

老健にはショートステイ短期入所デイケア通所リハビリもあり、一時利用でもご家族は息抜きができます。もっと老健を知ってもらって、認知症の方やそのご家族が住みやすい社会になったらいいなと願います。

介護副主任の川西善一(かわにし・よしかず)さんは「利用者さんの気持ちに寄り添える介護を心掛けています」と説明していました。

介護福祉士として働いて、15年目になります。
介護職は、人の人生にかかわる仕事です。
大切なのは、利用者さんの目線に合わせて、利用者さんの気持ちに寄り添うことで、共感できる介護を心掛けています。なぜ、ここに来たのか理由もわからない利用者さんの不安な気持ちを取り除き笑顔で関わることが私たちの仕事です。

サービスを提供する介護福祉士が「楽しい」と思ってサービスを提供しないと、相手に伝わりません。楽しさを伝えたいと意識しています。

月1回、土曜日に認知症カフェ「カフェあべのカローレ」を開いています。今は、コロナ禍で中断していますが……。
カフェは誰でも利用することができ、認知症の方と地域の方々とのかかわりも大事にしています。

介護副主任の鈴木都(すずき・みやこ)さんは「相手の心がなごむケアを心掛けています」とやりがいを語っていました。

入職して15年くらいです。自分に何ができるかを考えて、色紙がいいかなと折り紙を使うようになりました。上手にできると、利用者さんに喜ばれます。

園芸も好きです。コロナ禍で外出が難しいので、利用者さんがストレスを感じることのないように、5階の屋上にある庭園を活用します。一緒にトマトを栽培したり、イルミネーションを楽しんだり、屋上の庭園で季節の花を楽しんでもらったり。
認知症だから、これはあかん、というのでなく、利用者さんの気持ちがなごむようなケアを心掛けます。ことばの掛け方ひとつでも、利用者さんの行動も、対応も変わります。利用者さんが気持ちよく時間を過ごせるように、笑顔で相手の立場に立った介護を目指しています。

介護事業部副部長兼事務長の廣橋誠(ひろはし・まこと)さんは「利用者さんが自宅に帰る支援をできるのは老健だけです」と老健施設の役割を強調していました。

全室個室ユニット型の利点は、利用者さんが自宅と同じ生活を施設で実現できることです。一方で、自宅に戻るために、集団生活の中で、社会のつながりを意識することも大切にしています。

利用者さん同士が「あんた、一人で立ったらあぶないよ」と声を掛け合うこともあります。社会の中で小さくても、役割をもち自分が必要とされていると知ると、生きていく心の支えになります。
認知症に対する周囲の理解が広がれば、認知症の人も当たり前に地域で暮らせます。

施設生活を楽しんでいる女性の利用者さんが以前、ぼそっと、つぶやいたひとことが忘れられません。「私たちは結局、かごの中の鳥や」。皆さんが帰りたいと願っているのです。自宅に帰る支援ができるのは老健だけです。

在宅復帰の可能性を探ることに貢献したい。そのためにも、利用者さんの一番の支えであるご家族とのつながりを大事にしています。

施設案内


医療法人山紀会 介護老人保健施設やまき・あべの苑
所在地:大阪市阿倍野区阪南町1-45-8
電話番号:06-4399-8600
入所定員100人
通所定員30人

執筆:おれんじねっと記者  中尾卓司

1966年4月、兵庫県丹波篠山市生まれ。
1990年4月、毎日新聞入社。大阪社会部、外信部、ウィーン支局、社会部編集委員を経て、2020年3月、毎日新聞を早期退職。記者一筋に30年の経験を生かして、おれんじねっとの取材チームに加わり、記者活動を展開中。「つなぐ、つながる、つなげる」を掲げて新しい情報発信のかたちを提案している。
大阪大学箕面キャンパス「現代ジャーナリズム論」非常勤講師
関西大学社会学部「ジャーナリズム論」「時事問題研究2」非常勤講師

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