秋の風景を器に詰めて ~衣替えに合わせて食事も季節替わり
今年は10月に入ってからも平均気温が高く、秋の訪れにはもう少し時間が掛かりそうでした。ところがこの数日間は寒波の影響でぐっと気温が下がり、慌てて冬支度をしている方も多いのではないでしょうか。
当施設では、例年紅葉が色づくタイミングで、秋がたくさん詰まった釜飯風が登場します。釜飯とは1人前の釜で炊いた料理で、釜のまま食卓に出すのが特徴だそうです。2021年の駅弁人気ランキングをみてみると、第3位に群馬県の「峠の釜めし」がランクインしていました。駅弁で釜飯が人気な理由は、ご当地の特産品や1つ1つの素材の味が楽しめることにあるようです。
当施設の釜飯風は、人参や筍を具材とした醤油ベースの味付けご飯をお重に敷き、錦糸卵を広げてから秋の具材を順に並べていきます。鶏の照り焼きをメインに山菜やきのこ類、さつま芋や栗それぞれの素材が生かせるようにと薄味を心がけています。
「さつま芋と栗の甘さが似ているとお口直しにならないかも。どちらかに甘みのアクセントをつけたほうがいいのではないかな」「山菜は酵素でやわらかく炊いて、噛み切りやすくしたほうがいいよね」というふうに、美味しく食べていただくために細心の注意を払って段取りをしています。
秋の風景を想い出せるような盛り付けになるようにと試行錯誤を繰り返し、調理師のイメージが実際の盛り付けに反映できるように事前準備にも力が入ります。
行事食の内容によっては、通常献立より盛り付けの手が多く必要になります。今年の釜飯風は、管理栄養士養成大学から臨地実習にきている学生さんが助っ人です。
手作りレンコン饅頭を器に盛った後に銀餡をかけ、エビと銀杏をのせて五色あられを散らす作業を終え、さっそく釜飯風の盛り付け場所に駆り出されていました。
「キノコが生えているように見せるためにシメジの軸は下に向けてね」「最後に添える型抜き人参の銀杏と紅葉の位置は適当におかないように」そんなアドバイスが飛び交いながら、時間内に盛り付けを終えるよう全員で協力しながら進めています。
学生さんが提出する実習記録には、「色鮮やかで美味しそうに見えるようにと気をつけて盛りました。」「食事を楽しみにしている利用者様のために工夫されているのがすごく伝わりました。」といったことが記載されていました。
高価な食材を使用しなくても、工夫次第で人に喜んでいただける料理になるということを、未来の管理栄養士さん達に伝えるきっかけにもなった行事食でした。
執筆:介護老人保健施設さやまの里 管理栄養士 西田 有里
この献立コラムは、介護老人保健施設さやまの里(大阪狭山市)の管理栄養士、西田有里さんが書いています。さやまの里では毎日昼夜、利用者さんはメニュー2種類から食事を選びます。食事の選択を聴いて回ることで利用者さんと食を通したコミュニケーションを深めています。