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高齢者が裁判を行う際の注意点

2022年2月1日

高齢者が訴訟の当事者になることは珍しいことではなく,訴える場合(原告)であっても,訴えられる場合(被告)であっても,その方自身が訴訟手続を進めていく必要があります。もちろん,弁護士に委任する方法がありますが,弁護士はあくまで代理人ですので,どういう主張を行うか等の訴訟の方針については,最終的には当事者であるその方自身が決めなければなりません。高齢者と訴訟能力
しかし,一般的に,高齢者は,判断能力が低下してくるものなので,訴訟の方針をその方自身に判断させるべきでない場合があります。例えば,成年被後見人,被保佐人,被補助人が訴訟手続の当事者となる場合がありますが,民事訴訟法は,これらの方が訴訟手続を進めるにあたって規律を設けているので,今回は,その規律をご説明します。

成年被後見人が訴訟を行う場合

成年被後見人とは,民法8条により,後見開始の審判を受けた者をいい,その際,成年後見人が付されることになります。
民事訴訟法31条は,「未成年者及び成年被後見人は,法定代理人によらなければ,訴訟行為をすることができない。」と規定しています。そして,成年被後見人の法定代理人は,成年後見人なので(民法859条),成年後見人が成年被後見人を代理して訴訟行為を行うことになります。

被保佐人が訴訟を行う場合

1 原則(保佐人の同意が必要)

被保佐人とは,民法11条の規定により,補佐開始の審判を受けた者をいい,その際,保佐人が付されることになります(民法12条)。そして,被保佐人が訴訟行為をするには,保佐人の同意が必要です(民事訴訟法28条,民法13条1項4号)。

2 特則(民事訴訟法32条)

(1)保佐人の同意が不要な場合

被保佐人が訴訟行為を行うにあたって,常に保佐人の同意を必要としては,同意が得られない場合に被保佐人は,相手方の訴訟行為を受けることができないことになるので,相手方の訴え提起,上訴の提起を妨げることになります。そうすると,相手方が裁判を行うことができなくなってしまいます。
そこで,民事訴訟法32条1項では,相手方の裁判を受ける権利を保障するために,被保佐人が,相手方の提起した訴え,又は上訴について訴訟行為をするには被保佐人の同意を要しないと規律しています。

(2)保佐人の個別の同意が必要

被保佐人に重大な結果を招来する行為であり,事前に予想されない行為であって,同意の範囲に包含されているとは必ずしもいえない,一定の行為については,その行為ごとに個別的に同意が必要になります(民事訴訟法32条2項)。例えば,被保佐人が,和解や控訴(その他は後記の条文をご確認下さい。)を行うには,保佐人から,その行為を行うための同意を得る必要があります。

被補助人が訴訟行為を行う場合

1 被保佐人との違い

被補助人とは,民法15条の規定により,補助開始の審判を受けた者をいい,その際,補助人が付されることになります(民法16条)。被補助人は,被保佐人とは異なり,当然には,訴訟行為を行うために補助人の同意が必要になりません。被補助人が訴訟行為をするには補助人の同意を得ることが必要である旨の審判があったときは,被補助人は補助人の同意を得ずに訴訟行為をすることができないことになります(民事訴訟法28条,民法17条1項)。

2 民事訴訟法32条

民事訴訟法32条の規定は,被補助人が訴訟行為を行うために補助人の同意を必要とする場合にも適用されます。
したがって,被補助人が,相手方の提起した訴え,又は上訴について訴訟行為をするには補助人の同意は不要となり,和解や控訴等を行うには,補助人から,その行為を行うための同意を得る必要があります。

まとめ

今回は,成年被後見人,被保佐人,被補助人が訴訟行為を行う場合の民事訴訟法の規律をご説明しました。訴訟を行う際には,ご留意いただけますと幸いです。

民事訴訟法31条,32条

(未成年者及び成年被後見人の訴訟能力)
第31条 未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。

(被保佐人、被補助人及び法定代理人の訴訟行為の特則)
第32条 被保佐人、被補助人(訴訟行為をすることにつきその補助人の同意を得ることを要するものに限る。次項及び第四十条第四項において同じ。)又は後見人その他の法定代理人が相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには、保佐人若しくは保佐監督人、補助人若しくは補助監督人又は後見監督人の同意その他の授権を要しない。

2 被保佐人、被補助人又は後見人その他の法定代理人が次に掲げる訴訟行為をするには、特別の授権がなければならない。

一 訴えの取下げ、和解、請求の放棄若しくは認諾又は第四十八条(第五十条第三項及び第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による脱退

二 控訴、上告又は第三百十八条第一項の申立ての取下げ

三 第三百六十条(第三百六十七条第二項及び第三百七十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定による異議の取下げ又はその取下げについての同意

執筆者:折田総合法律事務所  弁護士 浅田健一郎

大阪弁護士会所属。大阪府枚方市出身。

高齢者問題を始めとして,建築紛争,税務紛争等,多種多様な紛争解決に精力的に取り組んでいる。

最近ゴルフを始めた。

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