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認知症当事者も障害者も一緒に笑って アットホームに作業に取り組み ~「やんちゃ倶楽部」(岸和田市)

2022年1月19日

岸和田市の特定非営利活動法人「きぼうの輪」の「やんちゃ倶楽部」は、障害者の作業所です。認知症の当事者も通っています。取材に訪れた日、利用者さん16人がスタッフの手助けを受けながら木工作品づくりやサングラスに説明札を付ける作業に取り組んでいました。
アットホームな雰囲気を大切にして過ごす居場所でもあります。「やんちゃ倶楽部」の活動について、管理者の琴真弓さんに聞きました。

ここはどんな施設ですか。開設に至った経過もお話しください。

やんちゃ倶楽部は、就労継続支援B型の作業所です。利用者さんは20代から80代まで幅広く、障害者も認知症の当事者もいます。岸和田市は、認知症の当事者にも理解があって、当事者も、福祉サービスの選択肢としてこの作業所に通うことができています。

就労継続支援B型のやんちゃ倶楽部の開設は2017年2月でした。認知症のやんちゃなおっちゃんたち3人と活動を始めました。2020年2月に、今の場所に移ってきました。

私はもともと、社会福祉法人で働き、認知症対応型デイサービスの仕事も経験しました。若年性認知症の方ともふれあって、もっと早い段階で出会っていたら「この人たちの人生は変わったかも」と考えていました。

頼ってくれる認知症の方がいて、当初は週1回集まって居場所作りをしながら、毎月ソフトボールと山歩きをしていました。そのグループを「やんちゃ倶楽部」と名付けたことから、その名前を受け継いでいます。居場所づくりを2年近く続けて、毎日通える場所づくりを模索する中で、「手伝うから」とおっちゃんたちも言ってくれて、作業所になりました。

ソフトボールやフットサルや山歩きの活動も続いています。

どんな活動をしていますか。

飾り棚や表札、キーホルダーなど木工製品をつくり、サングラスの説明札付け、商品の袋詰めなどの軽作業をしています。捨てられたミカンの木を再生利用して、はんだごてを用いて絵を描いた作品もあります。

アットホームな雰囲気あふれる居場所であることも重視しています。

 

安心してやってこれる場だからこそ、利用者さん同士のコミュニケーションも弾みます。

作業時間は、平日の午前10時から午後4時まで。今は、コロナ対策で午後3時までと仕事の時間を短縮しています。

昼には、ボランティアさんがつくってくれるご飯とお味噌汁を一緒にいただいています。

利用者さんは、地元の岸和田市のほか、和泉市、泉大津市、貝塚市からも通っています。

どんな場面でやりがいを見いだしていますか。

ここには、当たり前の日常があります。怒ることも、泣くことも、笑うことも、楽しいことも当たり前の感情が普通に出せる場であってほしい。ちゃんと自分で言うておいでやと、常々、利用者さんに伝えています。仲間がいて、作業の仕事があって、生活の中で存在を確かめ合って、ともに過ごす時間を楽しめる居場所になっています。

知的障害の女性が認知症の方をトイレに連れていったり、泣き叫ぶ障害者に認知症の方がやさしく話しかけたり。利用者さん同士のあたたかい関係が生まれています。けんかすることもありますが、自然な感じで人間関係を築けています。多少のことでは、何が起こっても動じないようにと、心掛けています。

利用者が「やりたい」と思ったことは実現してあげたいと思います。

「釣りに行きたい」「久しぶりにラーメンを食べたい」「料理したい」とか。実現はまだですが、「魚をさばいて、みんなにふるまいたい」と言ってくれた人もいます。

コロナ対策では、どんな取り組みをされましたか。

窓を開けっぱなしにして、机にはプラスティック製の透明な衝立を立てて、感染対策を十分施して、緊急事態宣言の最中も、この場所を開いて活動を継続しました。

マスクで顔が覆われると、表情が見えなくなって、利用者さんが不安がるので困りました。

色のついたマスクをすると利用者さんが「お前、大きな口してるやん」と笑ってくれました。

コロナ禍にあっても閉じこもらないためにどうしたらいいか、を工夫しました。

「こういう時期だからこそ、しっかり動こう」と外出の機会を増やしました。近くの牛滝川の川沿いを20~30分かけて散歩しました。車に乗って、ちょっと離れた道の駅まで出かけることもあります。

今後の課題や次に向けた展望はありますか。

すぐ近くに小学校があるので、敷地に小さな小屋を設けて、子どもが出入りできる駄菓子屋さんを開きたいと考えていました。この場所に移った2020年2月の後、コロナ禍の真っただ中なので、まだ実現できていません。

小学生と交流の機会を持ちたいですね。学童保育のお手伝いや、小学生と遊ぶこともできるといいなと願っています。

小さな屋台を設けて焼きいもを焼いて売ろうか、というアイデアもあります。みんなが交代で店番できたら、楽しいでしょうね。

ご高齢になって、ここに通ってくるのが体力面でもつらくなっている人もいます。その利用者さんにどう寄り添えるのかも、課題です。

次の段階として、やんちゃ倶楽部と同じような環境で過ごせる当事者

向けのデイサービスの施設を近くに設けて、活動の幅を広げられたらいいな、と考えています。

地域社会に向けて、伝えたいことはありますか。

長年、自宅にひきこもっていた方がボランティアで通ってきてくれています。「ここに来たら安心できる」と話しています。そんな場づくりに貢献できていることもうれしいですね。

障害や認知症があるなしに関係なく、だれにでも居場所は必要です。「あそこに行ったら、ほっとできるねん」と心の支えとなれたらうれしい。こういう施設をうまく活用してほしいと願っています。

利用者さんたちの笑顔に囲まれ、「ありがとう」と言っていただける仕事を続けられていることが幸せだと思っています。

特定非営利活動法人きぼうの輪

やんちゃ倶楽部
就労継続支援B型(定員20人)


岸和田市田治米町415-9
電話:072-444-6530

執筆:おれんじねっと記者  中尾卓司

1966年4月、兵庫県丹波篠山市生まれ。
1990年4月、毎日新聞入社。大阪社会部、外信部、ウィーン支局、社会部編集委員を経て、2020年3月、毎日新聞を早期退職。記者一筋に30年の経験を生かして、おれんじねっとの取材チームに加わり、記者活動を展開中。「つなぐ、つながる、つなげる」を掲げて新しい情報発信のかたちを提案している。
大阪大学箕面キャンパス「現代ジャーナリズム論」非常勤講師
関西大学社会学部「ジャーナリズム論」「時事問題研究2」非常勤講師

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