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大阪を元気にするのは認知症の高齢者!此花区役所前にも、てへぺろキッチンカー登場

2021年11月1日

大阪を元気にする「てへぺろキッチンカー~まちがいが許されるお弁当屋さん~」プロジェクトが大阪市此花区と福島区で展開されています。

10月26日にあった第3回「てへぺろキッチンカー」では、ロドおじさんのキッチンカーが登場し、用意していた80食のタコスが完売。認知症の高齢者が売り子を務める「てへぺろキッチンカー」は11月6日まで続きます。

オレンジ色のキッチンカーに人盛り 注文は糸電話で

オレンジ色のキッチンカーの前には、タコスを待つお客さんの列ができました。オレンジ色は認知症支援のシンボルカラーです。

多くの人が密集しないようにという感染対策と、売り子となる認知症高齢者が、心にゆとりを持ってお客さんとの接客を楽しめるように、少数の予約客限定のイベントでしたが、会場は終始にぎやかな雰囲気に包まれました。

糸電話を使ってお客さんから注文を取ります。注文の手段も、飛沫拡散防止とソーシャルディスタンスを両立させた、コロナ感染対策を配慮した知恵なのです「注文をお願いします」
「タコス三つ、予約しています」

長さ2mの糸電話をピーンと張らないと、注文の声が売り子役の高齢者に届きません。

「ん?なんやて?もうちょっと大きな声でお願いします」
「その糸電話ちゃんと耳に当てな聞こえませんよ」

注文のたびに、「てへぺろキッチンカー」らしく、ほほえましいやり取りが繰り返され、売り子の高齢者も、見守る周囲のスタッフも、笑顔を浮かべていました。

キッチンカーとロドおじさんを囲んで記念撮影が続き、和気あいあいの雰囲気が広がりました。
午前11時の開店前に、どんよりと曇った天候だったのが、予約客の列ができた頃には、からっと晴れて強い日差しに変わりました。「いい天気になって、よかったね」とことばが交わされます。

人気者のロドおじさんがピリ辛のタコス提供

メキシコ人のロドおじさんこと、ロドルフォ・セペダさんは福島区の人気者です。日本在住37年で貿易会社を営んでいます。
タコスは、チキン、スパイシーミンチ、野菜を小麦粉のやわらかい生地で包み、ピリ辛の味のタコスが人気を博していました。

ロドおじさんは「こんなに多くの人に来てもらって、うれしいです。みなさんに喜んでもらえるイベントに積極的に参加しています」と話していました。

にぎわいに気づいて「タコス、まだ販売していますか」と立ち寄る来庁者も多く、スタッフが「もう予約でいっぱいなんです。ありがとうございます」と応じていました。

会場には、てへぺろキッチン特製のかばん、Tシャツ、帽子、マスクの販売コーナーもありました。買ったばかりのてへぺろ特製かばんに、タコスを入れて帰るお客さんの姿もありました。

満面の笑みを浮かべた売り子のお年寄り

売り子となった高齢者は、「愛嬌抜群」などの条件をもとに、参加している三つの介護事業所から選ばれました。
スタッフと手をつないだ売り子さんに感想をたずねると、「楽しかったよ」「お客さんに喜んでもらったので本当にしあわせです」と満足そうに笑っていました。

此花区の高橋英樹区長も会場に現れ、スタッフや来場者と一緒になって記念撮影に加わっていました。

最初の客になった高橋区長は「タコスはとてもおいしかったです。認知症の人を支援するあたたかい気持ちの輪が広がればいいですね」と語っていました。

知恵と工夫を凝らして、てへぺろキッチンカー実現

企画した「てへぺろキッチンカー~まちがいが許されるお弁当屋さん~」プロジェクト代表で特別養護老人ホーム「ラヴィータ・ウーノ」の施設長、中川春彦さんは「コロナ禍でも知恵と工夫を凝らせば、こんなイベントを形にできることを示せました。少しでも地域を元気づけたい」と説明し、感染対策について、「糸電話が好評でしたね」と振り返っていました。
記念撮影用の顔はめパネルも登場しました。

本来なら握手したり、ハグしたり、高齢者に喜ばれるふれあいやスキンシップを大切にしたいところです。三密の密着を避けるために、イラスト上だけでも手をつないだ姿になろうと顔はめパネルが用意されました。

注文の連絡に用いたのは糸電話でした。注文の手段にIT機器の活用も検討しましたが、高齢者も手軽に活用できる糸電話が選ばれ、使用するたびに使い捨てできるように、地域のボランティアの力も借り、1回のイベントで50個の糸電話を用意しました。

中川さんは「思い描いたことが実現できました。売り子になった高齢者のみなさんも、スタッフのみなさんも、お客さんも、いい笑顔が広がりました」と喜んでいます。

そして、「たどたどしい接客でも、売り子役の高齢者さんが楽しんで、周囲の人も注文の間違いを許せる空気が共有できたら、明るく、あたたかいまちになります。コロナ禍でよどんだ雰囲気を吹き飛ばし、愛嬌あふれる接客ぶりがてへぺろキッチンカーらしいムードを伝えています。売り子さんも、スタッフも、お客さんも含めて、参加した人みなさんに感謝しています」と話していました。

てへぺろキッチンカーの「てへぺろ」とは、「てへっ」と照れ笑いを浮かべ、「ぺろっ」と舌を出すおちゃめな表情を表すことばです。認知症を抱えていてもチャーミングな高齢者が売り子を務めるちょっと風変わりなキッチンカーと、スタッフと客の間のあたたかい関係を目指しています。その狙い通り、まちを活気づけるイベントになったようです。

11月6日までの開催情報は下記をご覧ください。

執筆:おれんじねっと記者  中尾卓司

1966年4月、兵庫県丹波篠山市生まれ。
1990年4月、毎日新聞入社。大阪社会部、外信部、ウィーン支局、社会部編集委員を経て、2020年3月、毎日新聞を早期退職。記者一筋に30年の経験を生かして、おれんじねっとの取材チームに加わり、記者活動を展開中。「つなぐ、つながる、つなげる」を掲げて新しい情報発信のかたちを提案している。
大阪大学箕面キャンパス「現代ジャーナリズム論」非常勤講師
関西大学社会学部「ジャーナリズム論」「時事問題研究2」非常勤講師

 

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