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食べる意欲をかきたてる行事食 『節分編』 ~管理栄養士 西田有里さんの献立コラム~

2021年2月10日

『節分』とは、季節の節目である「立春、立夏、立秋、立冬の前日」のことで、年に4回あるそうです。旧暦では春から新しい年が始まっていたため、立春の前日の節分は今でいう大晦日のような大事な日だったとのこと。そのため、立春の前日の節分が重要視され、今では節分といえばこの時期をさすようになったようです。ちなみに今年のように、立春の日が2月3日で節分が2月2日になったのは、明治30年(1897)以来124年ぶりだそうです。『節分』の日は恵方巻きといって、巻き寿司を食べる習慣があります。この習慣は50年ほど前に、関西にある海苔屋さんとお寿司協会との連携で広めたのが始まりだとか(諸説あり)。

巻き寿司に使用する海苔は乾燥してパリパリの状態の時は食べやすいのですが、湿気を含むと噛み切りにくくなります。高齢者はだ液の分泌も少ないため、海苔が上顎や喉にはりついてとても危険な状態に陥ることもあります。

高齢者の食事では散らし寿司や握り寿司がとても喜ばれます。当施設では、日ごろ主食に粥を召し上がっている方も、寿司の日には全員に、寿司を提供しています。嚥下機能に著しく問題があるなど、安全に喫食できない一部の方には提供できませんが、好きな物や食べたい物はなぜか上手く咀嚼して飲み込めるという方が、意外にもたくさんいらっしゃいます。
『節分』の巻き寿司も例外ではなく、皆様に召し上がっていただきました。巻き寿司の海苔が噛み切りにくい方や飲み込みに自信のない方もたくさんいらっしゃいますので、高齢者の方に配慮した海苔を使用しています。

昨今、いろいろと便利な食材が販売されていますが、この「噛み切りやすい海苔(*商品名ではありません)」もおすすめ商品の一つです。よく見ると海苔一面に数百個の穴が空けられているため、簡単に海苔を噛み切ることができます。もう一つ、『節分』といえば鰯を飾ったり食べたりする風習が知られていますが、今回巻き寿司の横に添えられているのは鰯の梅煮で、骨までやわらかく煮た既製品です。小骨を気にせず召し上がれます。

最近入所されたO様は、療養期間が長かったためか、まだ食欲が完全には戻っていません。粥も副食のおかずもそれこそチビチビとスプーンですくって召し上がっておられますが、いつも摂取量は半分ほどです。義歯の調整がまだ終わっていないため、食事は2本の歯でも食べられる形態を提供しています。普段は他の人が食べている食事に興味を示すことはありませんが、やはり今日の巻き寿司は気になるようでした。「巻き寿司食べられそうならお持ちしますよ」と声をかけると、「食べられる」と一言。お皿に入れた巻き寿司をお渡しし、歯がほとんどないのでゆっくり少量ずつ召し上がるようお願いしました。O様はゆっくりと味わいながら、巻き寿司を1つ、2つと食べ進めていました。安全に召し上がっていただけるかと遠くで見守りしていた私を見て、にっこりと目を細めてくださいました。

入所して日が浅い利用者様で食欲がない方でも、こうした行事食をきっかけに、食べる意欲が刺激されることがあります。目と舌で味わうには何が必要か。どの食事形態なら食べる意欲につながるのかと、日々答えが見つかるよう観察しています。安全に食べるための商品を活用し、これからも食べたい物が食べられる施設を目指していきたいです。

執筆:介護老人保健施設さやまの里 管理栄養士 西田 有里

この献立コラムは、介護老人保健施設さやまの里(大阪狭山市)の管理栄養士、西田有里さんが書いています。さやまの里では毎日昼夜、利用者さんはメニュー2種類から食事を選びます。食事の選択を聴いて回ることで利用者さんと食を通したコミュニケーションを深めています。


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