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「若年性認知症を知ってほしい」「人生を楽しんでほしい」 認知症の人とみんなのサポートセンター 沖田裕子さん

2021年10月16日

特定非営利活動法人・認知症の人とみんなのサポートセンターは、若年性認知症の人を支える活動を続けています。認知症の人とみんなのサポートセンター代表の沖田裕子(おきた・ゆうこ)さんは、「当事者に人生を楽しんでほしい」と願います。そのためにこそ、地域社会に向けて「若年性認知症を知ってほしい」と呼びかけています。

若年性認知症をどう理解したらいいですか。

若年性認知症とは、18歳から64歳までの年齢で、認知症の診断を受けた場合を指します。働きざかりで若年性認知症と診断された人に使える福祉サービスは限られ、社会資源は少ないのが実情です。

認知症のイメージが高齢になってからの発症が主かもしれません。しかし、若年性認知症の人は、体は元気で、社会との関りを求めています。

どのような点が課題でしょうか。

認知症という病気の本質が理解されていません。原因となる何らかの疾患があり、その結果としてさまざまな認知症状が出ます。「もの忘れ」とひとことでいっても、「もの忘れ」の範囲は広い。「あした写真の撮影があるから、ひげ剃ってきてね」と具体的に話すと、ちゃんと伝わります。大事なのは、その人に応じた伝え方です。

認知症に対する配慮は難しく、認知症を分かってサポートできるところは多くありません。必要なサポートを受けると働き続けることも、認知症の進行を遅らせることもできます。

この活動を始めた経過を教えてください。

医療保険で実施される重度認知症デイケアで働いていました。そのとき、かなり進行した重度の段階の若年性認知症の人が利用されていました。介護保険もまだない時代でした。

認知症が進行してから会っても、支援も難しい。どうにかならへんかな、と思って活動を始めました。

支援の必要を感じて2005年に家族会をつくり、二つのグループがひとつになって2006年に居場所を作ろうかという話しになりました。助成金を集めるためにもNPO法人にしたほうがいいので2009年1月に法人格を取得しました。

仕事の場タックは、どんな役割を担っていますか。

タックでは、アクセサリーの「くるみボタン」を手づくりしています。この仕事のいい点は、工夫しながら、いろんな工程を分担できることです。コミュニケーションを重ねながら、繰り返しの作業を楽しめます。

タックを見てほしい。仲間意識が生まれ、自由に話ができる交流の場です。でも交流だけでは続きません。仕事があるから、新しいことも覚えられます。

タックのような施設は必要だという認識は広がっています。
啓発と資金集めのために今年夏、クラウドファンディングに取り組みました。「くるみボタン」を返礼品として、100人に発送しました。A4の用紙に5個ずつ両面テープでくるみボタンを張り付ける作業を工夫しました。工程を分けて分担すると、みんなで作業できます。

タックの運営母体を支えているのはNPO法人ですが、タックは別会計で運営しています。


これまでの活動から、どんな成果が生まれましたか。

若年性認知症の人が相談できる体制を整えるために、国が若年性認知症コーディネーターを配置するようになりました。

大阪府から2016年、若年性認知症コーディネーターの委託を受けています。
若年性認知症コーディネーターを担当していると相談に来てくれるから出会いが増えました。相談活動にも力を入れています。
ほかにない「言語療法」、家族支援や独自の研修活動も実施しています。

認知症の当事者を集めた本人交流会も開きます。当事者同士のコミュニケーションが大切です。同じ立場の当事者に会うと元気になります。当事者が人生を振り返るライフレビューを聞く取り組みも実施しています。同じ立場の人の経験を知って、共感力が育まれます。認知症になる前のことや家族のことなど、自分のことも話せるようになります。

コロナ禍でどんな変化がありましたか。

コロナ禍でタックの活動日数が4日から2日に減り午前中のみとなりました。
しかし、よかったこともあります。高齢者施設の車いす清掃、公園の清掃、散歩……外に出かける活動が増えました。

高齢者施設に行って利用者が生活で使っている車いすを清掃します。車いすがきれいになるので、とても喜ばれます。社会に役に立つことを実感できて自信にもつながります。

認知症になった人をサポートできれば、本人の可能性が広がります。本人にいろいろと聞いていくと、自分でも忘れていたことを思い出すこともあります。話し相手の存在が安心につながり、「認知症」と診断されたショックを受け入れられるようになります。

若年性認知症に理解を深めるために、何が必要ですか。

職場の仲間や自分が若年性認知症になるかもしれない。そのことを知ることが大事です。
早めに相談してもらえば、解決策を探れます。
時間が経過して、仕事を辞めるしか選択肢がなくなる前なら、きっと手立てがあります。

若年性認知症は、アルツハイマー型だけではありません。脳梗塞の後遺症で2~3年たってから仕事ができなくなるといったケースもあります。

コロナ禍が終息したら、取り組みたいことはありますか。

センターに遠方から通ってくることには限界があります。拠点は大切にしつつ、それぞれの地元で活動ができるように、当事者を支援するサポーターを養成したいと考えています。

仕事の場タックは、ずっと通い続けるのではなく、いずれ卒業する場と考えています。
自宅の近くに、通える作業所やデイサービスがあれば、そちらに行った方がいい。
車いすの清掃も各地にニーズはあるので、ここに集まらなくても、それぞれの地元でできるようにしたい。

病院でも、本人交流会を広げたい。努力している仲間のことを知ると、次のステップに進みやすくなります。

最後に、世の中に伝えたいことをお話しください。

悩んでいるなら、相談に来てください。若年性認知症の問題は、自分がならないと分からないことも少なくありません。

クラウドファンディングの返礼品にした「くるみボタン」には、「認知症になっても働けます。本人同士で話すことで『元気』が出ます。社会活動の継続で進行予防も……」「本人にあった働き方をサポートしていきます」とメッセージを添えています。

若年性認知症に対する理解が広がり、互いに助け合える社会になることを願っています。

特定非営利活動法人 認知症の人とみんなのサポートセンター

認知症の本人や家族の支援を目的に活動している。特に、若年性認知症や初期認知症の人など既存のサービスでは、ニーズが満たされない人のサポートに力を注ぐ。生きがいとしての仕事の場タックでは、仲間とともに創作活動に取り組んでいる。

特定非営利活動法人認知症人とみんなのサポートセンター

〒537-0024 大阪市東成区東小橋1-18-33
電話:06-6972-6490
ファクス:06-6972-6492

 

執筆:おれんじねっと記者  中尾卓司

1966年4月、兵庫県丹波篠山市生まれ。
1990年4月、毎日新聞入社。大阪社会部、外信部、ウィーン支局、社会部編集委員を経て、2020年3月、毎日新聞を早期退職。記者一筋に30年の経験を生かして、おれんじねっとの取材チームに加わり、記者活動を展開中。「つなぐ、つながる、つなげる」を掲げて新しい情報発信のかたちを提案している。
大阪大学箕面キャンパス「現代ジャーナリズム論」非常勤講師
関西大学社会学部「ジャーナリズム論」「時事問題研究2」非常勤講師

 

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