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コロナ禍で生まれた「傘体操」、地域のつどいの場に届けよう~あべのオレンジチーム

2022年1月4日

阿倍野区社会福祉協議会のあべのオレンジチーム(認知症初期集中支援チーム)は、軽度の認知症や認知症予防を願う高齢者向けにユニークな「傘体操」を考案しました。
コロナ禍で三密を避けてソーシャルディスタンスを保つために、傘を使うアイデアを取り入れて工夫しました。今後、傘体操を地域のつどいの場に届ける構想を温めています。

阿倍野区認知症強化型地域包括支援センターの認知症施策推進担当の大石康子(おおいし・やすこ)さんとあべのオレンジチームの認知症地域支援推進員の菱谷久子(ひしたに・ながこ)さん、チーム員の長島圭子(ながしま・けいこ)さんに聞きました。

傘体操は、どんな取り組みから生まれたのですか。

頭と身体を使う活動「脳とからだのワーク」の実践から生まれたのが「自然にソーシャルディスタンスが取れる傘体操」です。
「脳とからだのワーク」は2018年から続けており、半年の期限を定め、各種サービスにつなげることを目的としています。対象はオレンジチームにご相談のあった認知症の方で、サービスにつながらず、集う場のない方としています。これまで参加者に体操や歌のプログラムを実施いただき、参加者のふれあいやスキンシップを大切にしてきました。しかし、新型コロナウイルス感染予防のために中止になりました。

コロナ禍で活動しづらい状況でしたが、これまで培ってきたノウハウを活用し、「脳とからだのワーク」の身体を動かすプログラムの一つとして傘体操を始めました。

雨傘の長さ以上に隣の人と距離を保つと、ソーシャルディスタンスを確保できます。

特定非営利活動法人・認知症の人とみんなのサポートセンター代表の沖田裕子さんのアドバイスを受けました。「新しいことを始めよう」と傘を用いるアイデアを生かして傘体操が始まりました。最初の緊急事態宣言が発令された昨年4月から数カ月、「脳とからだのワーク」を中断した時期に、傘体操が生まれました。

傘体操はどんな内容ですか。

折り畳んだ状態の雨傘を両手で持って、「1、2、3、4……」と進行役の掛け声に合わせて呼吸を繰り返したり、体を回転させたり、ねじったり。腕の上下や開脚、上体を前後に倒すなど簡単にできます。椅子に座って両手で傘を持ってできる体の動きの組み合わせです。

「MCI(軽度認知障害)」や認知症が疑われるけれども介護認定に至っていない人向けに、できることを試す内容であり、身体機能のトレーニングにもなります。

阿倍野区社協で毎月1回、傘体操を中心にした「脳とからだのワーク」を継続しています。オレンジチームに相談があった人を対象に、コロナ感染対策を徹底して、参加人数も5、6人程度の少人数に限定して開いています。

どんなメリットがありますか。

「こんなプログラムをやっています」「フレイル予防に取り組みませんか」とお誘いします。フレイルとは、加齢による心身のおとろえを意味する表現です。

デイサービスを敬遠される方も、「脳とからだのワーク」と傘体操なら介護保険の手続きが不要なので気軽に参加できます。傘体操をやってみて、わかったことがいくつもあります。

たとえば、実際に体操をすると、体が硬いとか、体がスムーズに動かない、腕が上がらないなど身体と健康の状態がわかります。ケアマネジャーさんが知りたいアセスメントの情報を得ることもできます。

どんな反響がありましたか。

「体が楽になったわ」「楽しかった」と喜んでいただきます。プログラムの後半に、参加者が「自分のポーズ」を提案して「自分がリーダーになる」場面を設けます。リーダー役が傘を持つ独自の動きを提案して、他の参加者はその動きをまねします。

自分でできたことが自信になるのか、参加者はとても喜ばれます。

スタッフも参加者と一緒になってフラットな関係を心掛けます。

参加者の行動や言動を否定しないことも大切です。

認知症が疑われる方は何かの行動に失敗すると、自分に自信を失って外出もおっくうになります。他の人の履物を間違って履くなどの失敗がないように細かく気配りしています。

楽しかったという成功体験と満足感を持ち帰れるような場づくりを目指しています。

「培ったノウハウを区民の方へ集いの場を広げていただき、そこで還元しよう!」。そこで、培ったノウハウを区民の方に活用していただきたいと思いました。
休止している「集いの場」などで活用すれば、感染対策をしながら再開を考えている方々のヒントになるのではないかとDVDとテキスト作成に踏み切りました。

「傘」というどこの家にもある、道具を使って、自然にソーシャルディスタンスがとれます。杖ではだめですか?とよく聞かれますが、道具は何でもいいのです。
杖は持っていない方もいますが、傘はほとんどお持ちです。

自粛で足腰が弱くなった、もの忘れが気になるといった方々へ安心につながる支援になればと思います。

「自然にソーシャルディスタンスがとれる傘体操」のテキストとDVDを作られていますね。

「自然にソーシャルディスタンスがとれる傘体操」のテキストパンフレットとDVDを作成しました。


傘体操には、関係者の熱い思いが詰まっています。傘を持つ動作がわかりやすいので、まねするのも簡単です。だから、親しみやすいのでしょう。
傘体操は、認知症を予防する運動であると同時に、コミュニケーションを生むきっかけづくりにもなるので、自信を持っておすすめします。このDVDを多くの人に知ってほしいのです。

今後の展開をお話しください。

コロナ禍の外出自粛でイベントがなくなり、認知症が疑われる人も、必要な福祉サービスにアクセスできずに孤立しているかもしれません。

コロナ禍が収まった後、「傘体操」を地域に伝える活動を始めて、つどいの場を広げようと企画しています。認知症カフェや地域のサロン活動、百歳体操などつどいの場に「傘体操」を広めていこうと相談しています。

私たちだけでは地域に広げることはできないので、地域の事情に詳しい地域福祉コーディネーターや民生委員のみなさんとの連携や情報交換を大切にします。「脳とからだのワーク」の対象となる方をどのように見つけて誘うことができるのか。認知症の方を少しでも早く医療や介護のサービスにつなげるためにも、多くの方と一緒に取り組みたいと願います。

認知症の心配があれば、私たちにぜひ、相談してください。

社会福祉法人 大阪市阿倍野区社会福祉協議会


大阪市阿倍野区帝塚山1-3-8
阿倍野区認知症強化型地域包括支援センター:TEL.06-6628-1400
あべのオレンジチーム:TEL.06-6628-1300

執筆:おれんじねっと記者  中尾卓司

1966年4月、兵庫県丹波篠山市生まれ。
1990年4月、毎日新聞入社。大阪社会部、外信部、ウィーン支局、社会部編集委員を経て、2020年3月、毎日新聞を早期退職。記者一筋に30年の経験を生かして、おれんじねっとの取材チームに加わり、記者活動を展開中。「つなぐ、つながる、つなげる」を掲げて新しい情報発信のかたちを提案している。
大阪大学箕面キャンパス「現代ジャーナリズム論」非常勤講師
関西大学社会学部「ジャーナリズム論」「時事問題研究2」非常勤講師

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