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日常を味わう松花堂弁当 ~食欲の秋のお手伝い~

『松花堂弁当』は、器が十字に仕切られ、ご飯、煮物、焼き物、など食材同士の味や香りが混ざらないように小鉢を使用しています。それぞれの料理がおいしくいただけるとともに、見栄えよく盛り付けることができるため、いつもの料理がちょっと特別なものに見えます。

『松花堂』の起源は江戸時代にさかのぼり、画家で書家、僧侶でもあった松花堂昭乗氏に由来して名づけられた十字の仕切りがある箱が、始まりだそうです。箱が『松花堂弁当』に発展したのはそれから数百年後、大阪で茶事が催された時に、のちに料亭吉兆の創始者となる湯木貞一氏がこの箱を改良し、茶懐石の弁当を作ったのがきっかけで『松花堂弁当』と呼ばれる弁当ができたようです。『松花堂弁当』の配置は懐石料理と同じですが、必ず守らなければならないわけではなく、食べやすさや見栄えを重視した配置でいいというところが、料理をさらに美しく見せる秘訣なのかもしれません。

8月のある暑い日、大阪は緊急事態宣言が延長に延長を重ね、出口の見えない事態となっています。飲食店は営業時間を短縮し、緊急事態宣言があけるまで休業するところも。夏休みなのにお孫さんの帰省もなく旅行もなく外食もできず、施設もご家族の面会はまだ難しいこの時期、入所、通所の利用者様はどんな食事を喜ばれるだろうかと考えていました。

当施設の毎月定例の行事食の1つに『松花堂弁当』の日があります。定番の赤飯に天ぷらの組み合わせが喜ばれ、登場回数も多い傾向にあります。

その他の9月の行事食は“敬老の日”や“十五夜”、“秋分の日”というように、1年の中でも9月は特に行事食の多い月となっています。また、秋の味覚が献立に登場するため、行事食にはもってこいの日が続き、調理師も献立を考えるのにワクワクするようです。

『松花堂弁当』の特別感を秋の味覚と一緒にたっぷり味わってもらおう。8月にふと思い、出来上がった献立を調理師とにらめっこしながら見直しました。『松花堂弁当』の特別感をどう感じていただこうかと考えた結果、“敬老の日”の週に行事食が多く、秋を感じる食材も多く使用していたので、月曜日から土曜日までのこの1週間を『松花堂弁当週間』とし、毎日松花堂弁当で昼食を提供することにしてみました。


秋の味覚を代表する栗や銀杏、飾り切りや生麩を添えると、いつもの献立がにぎやかになりました。「今週は何か特別な日やったかな?」「毎日洗い物多くて大変じゃないの?」と、不思議に思ったり、心配してお声がけして下さる方もいらっしゃいましたが、無事に『松花堂弁当週間』を終えました。「どっかのお店に毎日食べに行ってるみたいやわ」「毎日お膳の中見てたらすっかり秋やな」と感想をいただき、日常から少し離れた雰囲気を味わっていただけたようです。厨房職員はやってみて良かったとよろこび倍増でした。

いつもと同じ献立でも、仕切りがあると少しずつ盛っているように思い、小食の人がペロッと食べれたり、器の中を覗き込んで、どれから食べようかと悩むことで、食欲を刺激することができます。そういった相乗効果も確認できた取り組みでした。

執筆:介護老人保健施設さやまの里 管理栄養士 西田 有里

この献立コラムは、介護老人保健施設さやまの里(大阪狭山市)の管理栄養士、西田有里さんが書いています。さやまの里では毎日昼夜、利用者さんはメニュー2種類から食事を選びます。食事の選択を聴いて回ることで利用者さんと食を通したコミュニケーションを深めています。


 

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