認知症高齢者への正しい食事介助の方法
認知症高齢者を介護する者の悩みの一つに「食事介助」があります。
認知症を発症すると、認知機能が低下し、日常生活が困難になります。
発症初期は自力で食べていた人も、症状が進行するにつれて「食べる」という行為が徐々にできなくなってきます。
そうなると食事の度に介助が必要になるので、家族や介護者にとってはかなりの負担になります。
また、介助の仕方が間違っていると、介助される側も苦痛になってしまい、食事拒否になりかねません。
そうならないために、認知症の方への正しい「食事介助」について、わかりやすく解説していきます。
認知症が進行すると自力での食事は困難
認知症高齢者の「食事介助」をするにあたり、理解しておかなければならない点がいくつかあります。
なぜ、自力で食事できないのか、そこを理解していないと正しい介助はできません。
- 理解力・判断力の低下
- 集中力・意欲の低下
- 嚥下機能の低下
- 認知症による失認
このような認知機能の低下により「食事」に関するさまざまな問題が増えてきます。
例えば、以下のような問題が介護者を悩ませ、認知症本人の生活の質を低下させます。
- 食べようとしない
- 食事量が減った
- 同じものしか食べない
- 食べ方がわからない
- 食べ物以外の物を口に入れる
このように、食に関する行動に問題が現れたら「食事介助」が必要と言っていいでしょう。
では、「食事介助」はどのようにしたらいいのか、正しい「食事介助」のコツをお話しします。
しっかり食べてもらうための正しい「食事介助」
「食事」は、私たちの生命・健康を維持するために欠かせない行為です。
認知症になると、「自分で食べる」という行為自体が難しくなります。
しかし、バランスのとれた栄養とカロリーは摂取しなければなりません。
そのためには、一日の食事の管理と「食事介助」が必要になります。
環境を整える
認知症の方は集中力の低下により、テレビがついていたり、周りが騒がしかったりすると、食事に集中できないことがあります。
静かに落ち着いて食べられる環境を作ってあげましょう。
誤嚥予防の姿勢
座る姿勢も正しくないと誤嚥(飲み込むときに誤って気管に入ること)の原因になります。
少し前屈みになり、深く腰掛けて、床に足がしっかりとつくくらいの高さのイスと、腕を乗せたときに肘が90度になるくらいの高さのテーブルが望ましいです。
背もたれに背中を付ける姿勢は誤嚥しやすいので、少し前にかがむくらいの姿勢で座ってもらい介助しましょう。
食事内容に配慮する
認知症の方に限らず、高齢者は誤嚥に配慮した食事が求められます。
野菜や肉などは一口大よりやや小さめに切り、やわらかく調理します。
多少粘度のあるものが咀嚼しやすく飲み込みやすいでしょう。
汁物は必ず片栗粉などでトロミをつけて誤嚥を予防します。
また、見た目も「食べたい」と思うように、色合いや盛り付けも工夫してみましょう。
適切な声かけ
食事の前から声かけし、これから食事ですよと心の準備を促します。
正しい姿勢で座ったら、メニューを1つずつ説明します。
例えば「肉じゃがですよ、○○さんじゃがいもは好き?にんじんも、しらたきも入っていて美味しそうですね~」という感じで、質問も入れながら食べる関心や意欲を引き出すような声かけをします。
介助中も「おいしい?」や「よく噛んでね」などの声かけは必要ですが、咀嚼しているときに話しかけると誤嚥しかねないので、飲み込むまで待ちましょう。
ただ黙々と食べ物を口に運ぶのではなく、『食事は楽しいもの』と認識してもらうために、明るくも穏やかな声かけが重要です。
まとめ
私たちにとって当たり前の「食事をする」ということが、誰かに介助してもらわなければいけない認知症の方にとっては、そのやり方次第で「楽しいもの」にも「苦痛なもの」にもなります。
本来、食事は美味しく楽しいものですので、そう感じてもらうことが大変重要です。
「食事を摂る」という行為は私たち人間にとって切っても切れないものですし、生命・健康の維持に必要不可欠なものです。
自分で自由に出かけたり、好きなことができなくなった認知症の方は、より一層食事の時間を充実させることで意欲の向上につながることがあります。
私たちは「認知症の方の食事介助」の必要性を十分に理解し、認知症の方の生活の質が良くなるようにしっかりサポートしていく必要があります。
監修大阪市立大学大学院医学研究科 神経精神医学 講師 内田 健太郎先生 日本認知症学会専門医 |