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淀川キリスト教病院老人保健施設~利用者の望みをかなえるチームの力~

2021年4月27日

淀川キリスト教病院老人保健施設(大阪市東淀川区)は、キリスト教の教えに基づき、「家に帰りたい」という利用者の望みをチームの力でかなえています。介護課課長代行の川﨑大実(かわさき・ひろみ)さんは「できないことをできるように、ご本人の願いを満たせることがやりがいになります」と語っていました。

施設の特色を教えてください。

キリスト教の宗教法人が運営する老健施設です。1階にチャペルがあって、毎朝、礼拝から始まります。
新型コロナウイルス対策には、とても気を使っています。家族と会わないと、認知症が進行する人もいるので、コロナ禍で制限があるなか、リモート面会も重視しています。

働きやすい職場です。10年以上のベテラン職員も多く、離職者も少ない。介護を担当する職員の9割以上は介護福祉士の資格を持っています。いろんな分野にまたがる多職種の職員が連携し、情報を共有してチームケアに当たります。だれかに負担が集中することもなく、互いにフォローし合う人間関係もうまく回っています。職員のいい雰囲気は、利用者さんにも、ご家族にも伝わります。

どんな介護サービスを提供されていますか。

「認知症だからできない」ではなく、できることは何でもやろうと努めます。
新型コロナウイルス感染が広がる前は、外出もよくしていました。近くの淡路商店街まで出かけたり、電車に乗って天神橋筋六丁目の大阪くらしの今昔館を訪問したり。万博公園や動物園まで行ったこともあります。

外の空気を吸って自分でお金を払う。そんな日常生活の感覚を取り戻すことが刺激になるのでしょう。料理教室を開くと、利用者さんは和気あいあいと、とてもいい顔をされます。包丁を持って魚を裁いたり、果物の皮をむいたり。自分で料理して身についたスキルを取り戻すことが安心につながります。

この季節は、柴島浄水場の桜並木にもよく出かけていました。今年は、コロナ禍で外出できないので敷地内の桜を楽しんでいます。

介護では、どのようなことを大切にされていますか。

できないことができたら、ご本人にも、私たち職員にも達成感が生まれます。
家に帰ることは難しかった人が家に帰ると、生きる自信につながります。10㍍歩行するためにどんな福祉サービスが必要かを検証します。自宅の住環境を確かめて、手すりが要るのか、ベッドが要るのか。家に帰るという目標に向かって一緒に取り組みます。

「家に帰りましょうね」と声掛けすると、ご本人のやる気も生まれ、励みにもなります。認知症の方は「家に電話してくれ」と訴えたり、エレベータの前から動かなかったり。家に帰ることに、こだわりを持たれます。その願いを閉じ込めるのではなく、その願いに応えたい。本人の思いを肯定して、一緒に行動することで前に進むきっかけになります。

認知症だからすべてが分からないわけではありません。昔の記憶は鮮明に持たれています。気分が落ち着くと、穏やかな感覚を取り戻されます。不快な気分にならないケアを意識します。気長で根気が要る仕事です。「きょうは、ぼくが行くわ」という風に、スタッフみんながチームになって協力します。目標を達成できたとき、やりがいを感じます。

これから、どんなことに取り組みますか。

当たり前のことを当たり前に、利用者さんが望んでいることをかなえてあげたい。そんなケアに取り組みたい。気長に接していると「これをやりたいのだろう」と利用者さんの意思がわかるようになります。立ち上がったり、そわそわしたり。行動の中に、ご本人の意思が隠れている場合があります。その思いをくみ取ることが、介護の大切な役割かもしれません。「買い物に行きたい」「これを食べたい」と言われたら、それに応えたい。個人個人のニーズを満たせるケアを心掛けています。

笑顔を大切に、なるべく楽しく生活してほしいと願います。

おれんじねっとを通じて、伝えたいことをお願いします。

一人で、あるいは、ご家族だけで抱え込まず、頑張り過ぎないでください。ご家族が疲弊してしまうと介護は継続できません。家庭生活を送るためにこそ、介護保険の制度や施設をうまく活用してほしいと思います。ちょっとしんどいなというときに、ご家族がひといきをつけるように一時的にお預かりすることも可能です。

介護や認知症に関して、困ったことがあれば、遠慮なく相談してください。老健施設の認知度はまだ、低いのかもしれませんが、多職種の職員もいるので、いろんな対応についてアドバイスできます。
地域社会が一緒になって取り組むことを広げて、地域で見守る関係を大切にしましょう。

施設案内

宗教法人 在日本南プレスビテリアンミッション 淀川キリスト教病院老人保健施設

所在地:大阪市東淀川区淡路2-1-41
電話番号:06-6815-8222
入所定員:100人(うち認知症専門棟40人)
通所定員:40人

執筆:おれんじねっと記者  中尾卓司

1966年4月、兵庫県丹波篠山市生まれ。
1990年4月、毎日新聞入社。大阪社会部、外信部、ウィーン支局、社会部編集委員を経て、2020年3月、毎日新聞を早期退職。記者一筋に30年の経験を生かして、おれんじねっとの取材チームに加わり、記者活動を展開中。「つなぐ、つながる、つなげる」を掲げて新しい情報発信のかたちを提案している。
大阪大学箕面キャンパス「現代ジャーナリズム論」非常勤講師
関西大学社会学部「ジャーナリズム論」「時事問題研究2」非常勤講師

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