認知症の種類でわかる、その原因
これから将来に向けて日本は、65歳以上の高齢者人口がますます増加していくことが予測されており、高齢化にともなう介護需要などへの対策が急務になっています。
そして、これらの中で見過ごせない問題の一つが認知症の有病率です。
現在も介護を行う上で認知症患者への対応は難しく、大きな課題になっています。
また2014年に出された認知症有病率の推移予測では、2020年時点で患者数が631万人、2025年は730万人、2030年には830万人となっており、5年ごとで約100万人ずつ増える予測が出ています。(*1)
そのため、ますます高まる介護需要に対して応えていくためにも、クリアしていかなければならないのが認知症への対応です。
しかし認知症と言ってもさまざまな種類があり、原因もそれぞれ異なっています。
そこで今回は、介護を行うために知っておきたい認知症の原因についてお伝えします。
(*1)『認知症施策の総合的な推進について(参考資料)令和元年6月20日 厚生労働省老健局』より
認知症とは
認知症とは何らかの原因によって脳の神経細胞が壊され減少し、脳の働きが悪化して引き起こされる症状や状態のことです。
認知症は進行すると理解力・判断力などの認知機能が低下していき、日常生活へ徐々に支障が出始めます。
そして認知症になると認知機能障害で現れる、中核症状と周辺症状(行動・心理症状:BPSD)が見られるようになります。
中核症状と周辺症状
認知症の特徴である中核症状(認知機能障害)と周辺症状(行動・心理症状:BPSD)は、次のような症状になります。
中核症状(認知機能障害)
認知症に必ず見られる記憶障害を中心とした症状
- 記憶障害
物事を覚えられなくなる、思い出せなくなる - 見当識障害
時間や場所・名前などが分からなくなる - 実行機能障害
計画や段取り、行動ができなくなる - 理解・判断力の障害
理解力・判断力が低下する
周辺症状(行動・心理症状:BPSD)
周りの環境や本人の性格などが絡んで起こる症状
- 妄想
物を盗まれたなどの思い込み - 幻覚
実際にはないもの見えたり、聞こえたりする - 暴力行為
感情のコントロールできなくなり暴力をふるう - せん妄
落ち着きがなくなる、独り言を話すなど - 抑うつ
気分が落ち込み、無気力 - 人格変化
穏やかな性格が短気になるなど、性格が変わる - 不潔行為
風呂に入らない、排泄物で遊ぶなど - 行方不明など
外を徘徊して、帰り道がわからなくなるなど
[参考]
認知症施策の総合的な推進について(参考資料)令和元年6月20日 厚生労働省老健局
認知症の初期症状は種類によって違いがありますが、「もの忘れ」から気づく場合が多いようです。
一般的に認知症は病名だと思われている方もいらっしゃいますが、実は病名ではなく独特の症状がある症候群になります。
そして認知症には、症例が多い三大認知症と呼ばれている「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」などを含めて、おおよそ70種類もありそれぞれで原因も異なっています。
今回は三大認知症の「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」を中心に、それらの原因について説明していきます。
アルツハイマー型認知症の原因
アルツハイマー型認知症は認知症の中でも一番多く、割合を67.6%も占めています。(*2)
そしてアルツハイマー型認知症の原因になっているのが「アミロイドβ」や「タウタンパク」と呼ばれている特殊なたんぱく質です。
これらのタンパク質が脳内に溜まることで、主に次のような変化が起きます。
- アミロイドβの沈着
脳内にアミロイドβが蓄積されます。通常は細胞がアミロイドβを除去しているが、できなくなり起きる現象。 - 老人斑
アミロイドβの周囲に死滅した神経細胞が蓄積する現象。 - 神経原線維変化
神経細胞の内部にリン酸化したタウタンパクが蓄積する現象。
この3つの変化は誰でも高齢になると現れますが、アルツハイマー型認知症の場合では異常発生します。
そして、異常な変化により脳内の神経細胞が死滅していき、記憶装置である海馬から徐々に脳全体へと委縮が広がっていきます。
ただし現在のところ、これらの異常がアルツハイマー型認知症を発症させているのか、もしくは別の原因が脳内の異常と認知症を誘発させているのかは、まだ分かっていません。
そしてアルツハイマー型認知症は緩やかに進行していくのが特徴で、徐々に日常生活に支障が出始め初期・中期・末期で次のような症状が見られます。
- 初期の症状
「直前の出来事を忘れる」「何度も聞き返す」「物をなくす」などの記憶障害や理解力・判断力の低下が表れはじめます。 - 中期の症状
記憶障害が進んで新しいことを覚えられなくなり、見当識障害・失認・失行・失語・徘徊などが見られるようになります。 - 末期の症状
自発性や意欲が低下し物事への関心がなくなっていき、人格の変化や不潔行為・歩行障害・運動障害が表れ寝たきり状態になることもあります。
現在のところアルツハイマー型認知症を根本から治す治療法はありません。
しかし、抗認知症薬のドネペジルやガランタミン・リバスチグミを服用することで、症状の進行を遅らせることは可能です。
(*2)『認知症施策の総合的な推進について(参考資料)令和元年6月20日 厚生労働省老健局』より
脳血管性認知症の原因
脳血管性認知症は脳梗塞や脳出血などの血管障害で引き起こされる認知症です。
アルツハイマー型認知症に次いで発症数が多く、認知症全体の19.5%になります。(*3)
脳内に張り巡らされた血管は脳の神経細胞へ栄養を供給しており、その血管が詰まる(脳梗塞)、血管が破れる(脳出血)などの障害が起きると、その原因個所の周辺の神経細胞に栄養が行き届かなくなり、ダメージを受けて認知症が引き起こされます。
そのため以前に脳梗塞・脳出血に罹患していた方や、高血圧・糖尿病・心疾患などのリスクを抱えている方が発症しやすい認知症です。
そして脳血管性認知症の特徴的な症状は次の通りです。
- 記憶障害(記憶がところどころで欠落する、まだら認知症とも呼ばれている)
- 認知機能障害
- できること、できないことがはっきりしている
- 手足のしびれ・麻痺・歩行障害
- 感情失禁(感情のコントロールがうまくできない)・抑うつ・せん妄
など
症状は障害が起きた場所や程度で異なり、その後も再び脳血管障害を引き起こすと、それにともなって段階的に症状が進行していきます。
一度失った神経細胞を再生することはできないので、脳血管性認知症についても根本から治せる方法はありません。
そのため新たに脳血管障害が起きないように生活習慣病の改善と予防や、血液の流れをよくする薬の服用、運動機能・言語機能を維持、回復させるためにリハビリテーションを中心に治療を行います。
(*3)「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)令和元年6月20日 厚生労働省老健局」より
レビー小体型認知症の原因
アルツハイマー型認知症・脳血管性認知症についでレビー小体型認知症は、4.3%の割合を占めています。(*4)
レビー小体型認知症は、特殊なたんぱく質の「αシヌクレイン」が脳の大脳皮質や脳幹に蓄積してできる「レビー小体」が原因で引き起こされる認知症です。
αシヌクレインには神経細胞に害をおよぼす毒性があると言われており、それにより神経細胞を死滅させるなどで、認知症が発症するとされています。
またレビー小体はドパミン神経(神経伝達物質を放出している脳の神経細胞)を破壊するので、レビー小体型認知症には体が上手く動かせなくなる特徴があります。
そして現在のところ、原因がレビー小体だということは突き止められていますが、なぜレビー小体が発生するのかは分かっていません。
またMRIやCTによる画像診断でも、はっきりとした脳の萎縮や死滅が見られないので判断しづらい特徴があります。
そしてレビー小体型認知症で表れる症状の特徴は、次の通りです。
- 認知機能の変動
時間や場所、周囲の状況によって、理解力・判断力に良い時と悪い時の差がある。 - 幻覚症状
主に実際には存在しないものが見える幻視症状がみられ、聞こえないはずの音が聞こえる幻聴も見られることがある。 - パーキンソン症状
手足の震え(振戦)・筋肉のこわばり・歩行が前傾姿勢になり、小股で歩いて突進し止まらなくなるなどの症状がある。(レビー小体はパーキンソン病の特徴であり、同じような症状がでる。) - レム睡眠期行動異常症
眠りが浅い「レム睡眠」時に「奇声を上げる」「暴れる」などの異常行動が見られます。
レビー小体型認知症についても現在のところ、根本的な治療法はありません。
ただアルツハイマー型認知症で用いられているドネペジルがレビー小体型認知症にも効果があるので用いられており、身体の動作やバランスを維持させるために理学療法も行われています。
(*4)「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)令和元年6月20日 厚生労働省老健局」より
その他認知症の原因
「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」以外で、よく名前が挙がる3つの認知症の原因について紹介します。
前頭側頭型認知症の原因
前頭側頭型認知症(*5)とは、脳内の思考や感情をコントロールしている前頭葉と、言葉の理解や聴覚などを司っている側頭葉の萎縮が原因で発症する認知症で、その半数は遺伝によるものです。
萎縮は神経細胞が壊されて起きているのですが、現在のところそれ以上のことは分かっていません。
そして残った神経細胞には、タウタンパクなどの特殊なたんぱく質が大量に蓄積されることが大きな特徴の一つになります。
また症状は、「人格の変化」「認知機能障害」「運動障害」などがあり緩やかに進行していき、治療については根本から治せる方法が見つかっていないので、現れている症状に対して薬物療法などを行います。
(*5)前頭側頭型認知症は前頭側頭葉変性症の1種で、ピック病・運動ニューロン疾患型・前頭葉変性症も含まれます。
アルコール性認知症
アルコール性認知症とはアルコールを多量に飲み続けたことが原因で、脳の萎縮や脳血管障害(脳梗塞など)・栄養障害などを起こして発症する認知症です。
症状には記憶障害や見当識障害などと、アルコール依存症と同じように歩行がふらついたり、感情の起伏が激しくなったりする症状が見られ、主な治療には断酒と生活習慣の見直しなどが行われます。
またアルコール性認知症は、その症状からウェルニッケ・コルサコフ症候群(*6)と同じという見方もあります。
(*6)ウェルニッケ・コルサコフ症候群
アルコール依存症、栄養障害のある人に現れる症状。
正常圧水頭症
正常圧水頭症とは、脳室内に蓄積された脳脊髄液が脳を圧迫して起きる症状です。
脳脊髄液は脳の周りに満たされて、脳が損傷を受けないための役割を担っています。
そして正常であれば脳室で作られて、脳の内部と周囲を循環して再吸収されていますが、正常圧水頭症になると再吸収されなくなります。
その原因の一つは脳室の肥大ですが、症例のうち50%以上は原因がはっきりしていません。
そして正常圧水頭症では、次の症状が現れてきます。
- 歩行障害
転びやすくなる・足が重く感じるなど、歩行が困難になる。 - 尿失禁
排尿のコントロールができなくなる - 軽い認知症
認識機能障害
正常圧水頭症を完治させることはできませんが、早期に手術で脳脊髄液を抜く治療を行えば改善の見込みがあります。
まとめ
今回、紹介した6つの認知症の原因についてまとめると次の通りになります。
- アルツハイマー型認知症
特殊なたんぱく質であるアミロイドβとタウタンパクが蓄積して発症します。 - 脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血などの血管障害で発症します。 - レビー小体型認知症
特殊なたんぱく質のαシヌクレインが蓄積してできる、レビー小体が原因で発症します。 - 前頭側頭型認知症
前頭葉と側頭葉が委縮して発症します。残った神経細胞にタウタンパクなどの特殊なたんぱく質が大量に蓄積されているのが特徴です。 - アルコール性認知症
アルコールの大量摂取を続けることで発症します。 - 正常圧水頭症
脳脊髄液が脳室内に蓄積されて発症し、症状には認知症が含まれます。
今回紹介したうちの、正常圧水頭症については症例の50%以上は原因が分かっておらず、アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症は特殊なたんぱく質の蓄積が原因となっており、前頭側頭型認知症の原因でも関係があるようですが、現在のところ、なぜそうなるのかは分かっていません。
このように発症数の多いほとんどの認知症は、ある程度の発症する仕組みは分かっていますが、根本的な原因が判明していないのが現状です。
しかし介護を行う上で認知症の原因を知ることはとても重要で、そこから症状を知り、それぞれの対応方法が分かってきます。
そのため認知症患者への対応は、その原因を知ることが大切な第一歩だと言えます。