「要支援」と「要介護」の違いとは?要介護認定の基礎知識
老化または疾患により介護が必要となった際に、各市区町村に申請し取得することができるのが介護保険における要介護認定です。要介護認定は病態や身体状況により要支援1から要介護5までの7段階に分けられ、段階に応じて介護に必要な利用限度額やサービスが異なります。
また、高齢者の疾患の中でも認知症は身体状況に関わらず症状により多くの介護力を必要とし、介護者の精神的身体的負担が大きいことが特徴です。そのため認知症は介護保険の特定疾患にも認定され、要介護認定において重要とされています。
そこで、本記事では介護保険における要介護認定の要支援と要介護の違いや、認知症について説明します。
介護認定において要支援と要介護の違いとは?
介護保険は高齢者の自立支援と、適切な介護サービス利用にて日常生活動作の悪化や介護者の介護負担を軽減させる2つの目的があります。
介護認定は「病態」と「生活自立度」で判断される
介護度によって利用できるサービスが決まるため、介護度認定はとても重要なものです。介護度は認定調査員や主治医そして専門家による介護認定審査会にて総合的に判断されます。その際に必要とされる情報が「病態」と「生活自立度」です。
病態では特に「状態の維持・改善の可能性」を判断されます。例えば、病気が一時的に悪化していても今後改善もしくは継続的な支援で安定する場合、また逆に今後短期間で急速に病気が悪化や急変する可能性があるのかということが重要です。
生活自立度としては衣食住においてどの程度支援を必要とするのかということが評価されます。例えば排泄の際におむつの有無やトイレに行く際は付き添いだけか、もしくは補助がいる場合どの程度まで必要なのかという具体的な部分まで情報が必要です。
また認知症の場合は認知症高齢者の日常生活自立度という基準によって判断されます。
要支援とは
病気や障害があるが、日常生活動作はほぼ自分でできている、もしくは一部の動作介助にてほぼ自力できている状態のことです。
例えば身のまわりのことはできるが、歩行に杖が必要であったり、掃除機掛けができないなどの状態にあたります。要支援は2段階に分けられます。
こちらは今後介護が必要な状態とならないよう介護予防サービス支援が必要があり、目標は生活動作の改善もしくは自立を目指すことです。
- 【要支援1】
基本的日常生活動作はほぼ自分で行うことはできるが、一部の動作に介助を必要とする。 - 【要支援2】
基本的日常生活動作はほぼ自分で行うことはできるが、要支援1に比べて歩行や日常生活動作の一部介助を必要とする。
※上記は平均的な状態を示したもので、病状や身体状況において全ての方に一致するものではありません。
要介護とは
病気や障害にて日常生活動作に一部もしくは多くの部分を自力で行うことができない、もしくは一部認知機能や精神的状態の障害があり介助が必要な状態です。
例えば、認知症にて理解力が低下や徘徊などがみられる場合や、身体的にはトイレに一人で行くことができないもしくはベッド上での介助が必要となる場合などです。要介護は5段階に分けられます。
こちらは介護サービスを受けることで、介護度がこれ以上あがらず、更に介護者の介護負担を軽減しながら在宅での介護が継続できるよう支援していくことが目標です。
- 【要介護1】
基本的日常生活動作一部介助もしくはおおむね自力で行うことができるが、要支援2に比べ運動機能の低下や思考力理解力の低下がみられる状態。 - 【要介護2】
歩行や排せつなど一部の基本日常生活動作において部分的な介助が必要な状態。 - 【要介護3】
歩行や排せつ、清潔動作など日常生活動作全てにおいて一部もしくは全面的に介助が必要な状態。 - 【要介護4】
立ち上がりや歩行も困難であり、日常生活動作が介助なしではできない状態。また認知面や思考力理解力においても低下がみられ、コミュニケーションがやや難しい状態。 - 【要介護5】
寝たきりの状態などほぼベッド上での生活であり、介助なしに生活することができず、意思疎通も難しい状態。
※上記は平均的な状態を示したもので、病状や身体状況において全ての方に一致するものではありません。
要支援と要介護では限度額とサービスが異なる
要支援と要介護では金額だけでなく、サービスの内容も異なります。具体的どの点が異なるのでしょうか?
利用限度額とは
介護度によって毎月に利用できるサービスの限度額が決まっています。限度額は時折改訂されており2021年1月時点で以下の通りとなります。
要支援1 50,030円 要支援2 104,730円 要介護1 166,920円 要介護2 196,160円 要介護3 269,310円 要介護4 308,060円 要介護5 360,650円
介護限度額内であれば、世帯収入によって上記の1~2割の負担でサービスが利用できます。また介護限度額を超えた場合は、収入に関わらず10割の自己負担となります。施設サービスの場合は個室などの居住費や食費は自己負担が必要です。
介護度によるサービスの違い
要支援は基本的に介護予防サービスが中心となるため、以下の4つは利用することができません。
- 通所介護
- 訪問介護
- 施設系介護
- 短期滞在型介護
いわゆるデイサービスやヘルパー、または施設入所や一時的に施設に預かってもらうショートステイなどです。施設入所の場合は介護保険が利用される特別養護老人ホームは要介護3以上の方、介護老人保健施設は要介護1以上の方が対象であり要支援の方は利用することができません。
要支援の方や介護認定を持っていない方で施設入所を希望される場合は有料老人ホームなどが中心となります。
短期滞在型介護は要介護であっても介護度によって利用日数が決まっており、介護度が低いほど利用できる日数が少なくなります。また連続して利用できる日数が30日以内などの細かい決まりがあります。ただし、状況によっては例外もありますので、詳しくは担当のケアマネジャーにご相談ください。
認知症の場合は介護度が優遇される場合がある
認知症は常に介護の目が必要となる場合や、急速に症状が悪化する可能性もあり、自立していても介護度が重くでる場合もあります。
介護認定における特定疾患とは
介護保険では特定疾患として認知症を含む16の疾患が認定されています。(2021年1月時点)この疾患に当てはまる場合は、本来65歳以降が対象である介護保健が40歳から利用することができるのです。
特定疾患とは加齢と関係がある病気であり、また半年以上継続して介護が必要となる可能性が高い疾患と言われています。
認知症は身体状況よりも病態が優先される
認知症は同じ疾患であっても脳血管系のものやアルツハイマー型などの種類がありそれによって症状も異なります。徘徊や物とられ妄想、精神不安定など介護者には大きな負担がかかります。その場合は介護度を考慮して身体状況とは異なる介護度がでる場合があるのです。
ただその一方で、すでに寝たきりの状態の方に認知症が合併した場合などは総合的見て介護度の変化が予想されないと判断された場合は、介護度が変わらないといったケースもあります。
必要に応じて区分変更申請も可能
要介護認定は年に1回見直しが行われます。ただし、例えば骨折を機に入院をし環境の変化から認知症が発症もしくは急速に悪化し、家に帰って介護をする自信がないといった場合などに行われるのが「区分変更申請」です。
申請後に再調査が行われ状態に合わせた介護度が再判定されます。全て地域包括支援センター職員かケアマネジャーが手続等行ってくれますので、不安な際は一度担当の方に相談するようにしてください。
まとめ
介護保険における「要支援」「要介護」の違いとは、目標や利用限度額、サービスが異なることです。また認知症など16の特定疾患の場合は、日常生活動作よりも病態が重要視される傾向にあります。
介護の中でも特に認知症は外部からは見えにくい疾患です。介護されるご家族はご本人の状態を適正に判断してもらうためにも、受診や認定調査の際は本人の聞き取り以外に、現状を家族からも詳しく伝えるなどの工夫も必要でしょう。
まだ介護認定を受けていない場合は、病院のソーシャルワーカーや担当地域の地域包括支援センター、または市区町村の役所などに問い合わせてみましょう。
監修大阪市立大学大学院医学研究科 神経精神医学 講師 内田 健太郎先生 日本認知症学会専門医 |